ケンブリッジ大、ハイレート型リチウムイオンバッテリー用の新電極材料を開発

英国ケンブリッジ大学の研究チームが、従来よりも急速充放電が可能なハイレート型リチウムイオンバッテリーを実現する新材料を発表した。ニオブ・タングステン酸化物を電極に使用し、リチウムイオンが一般的な材料よりも速い速度で移動することを確認した。研究結果は2018年7月25日の『Nature』に掲載されている。

バッテリーを充電する際、リチウムイオンは正極から電解質を通って負極に移動し貯蔵される。バッテリーの充放電レートは基本的に、電気化学的に活性な粒子内のイオン拡散速度で決まる。充放電時間を短縮するハイレート(大電流)を実現するために、通常は、電極材料にナノ粒子を利用してリチウムイオンの移動距離を短くするといった手法を使う。

「しかし、ナノ粒子で実用的なバッテリーを作るのは難しい。不要な化学反応が起こりやすく、バッテリーが長持ちしない。さらに、製造コストもかかる」と研究チームは語る。ナノ粒子はその特性から、体積充填密度の確保も難しい。

研究チームは、コストを抑え急速充電を可能にする負極材料として、ニオブ・タングステン酸化物を使用した。これは他の電極材料より製造が容易でコストも抑えられる。粒子サイズが大きく原子配列が複雑なため、これまで注目されなかったが、研究チームはその複雑で金属の混合した組成が独特のイオン輸送特性を持つと考えた。

結晶学的せん断構造をもつNb16W5O55とブロンズ型構造をもつNb18W16O93の2種類の化合物が、ハイレートで大量のリチウムを挿入できることを示した。どちらの構造も、室温でのリチウムイオン拡散係数が、Li4Ti5O12やLiMn2O4といった一般的な電極材料よりも高い。

酸素ピラー(柱)やせん断面のおかげで、より多くのリチウムイオンが速く3次元的に移動できる構造となっている。ミクロンサイズの粒子であっても、多電子酸化還元反応、体積膨張の緩和、幾何学的フラストレーション効果を持つニオブ・タングステン多面体配置、リチウムの輸送速度の速さが、極めて高いレートと容積を可能にした。

電圧がほかの電極材料より必ずしも高くないという欠点はあるが、作動電圧は安全上有利であり、急速充電しても実用的なエネルギー密度が高いままという利点がある。

負極材料として有名なグラファイトは、急速充電時に樹状の金属リチウムを析出しやすく、セパレーターを突き破って短絡や火災を引き起こす恐れがある。今回の材料の物理的構造と化学的振る舞いは、グラファイトに代わる安全かつ急速充電可能な素材として期待できるとしている。

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