植物細胞3Dプリンティング――3次元環境で細胞の機能研究に期待

植物細胞が互いに、あるいは環境と、どのようにコミュニケーションをとっているかを知ることは、植物細胞の機能をより深く理解するための鍵となる。また、優れた作物の品種や最適な栽培環境の創出につながる可能性もある。そのために、3次元環境下での細胞間シグナルを捉えることは重要となってくる。しかし、現在の培養方法では、多細胞の3次元環境を正確に捉えることができないという大きな課題がある。

米ノースカロライナ州立大学は、3Dプリンタを用いて細胞のバイオプリンティングをすることで、植物細胞同士の細胞間コミュニケーションを研究する再現性のある方法を開発した。

研究では、モデル植物であるシロイヌナズナと、ダイズの細胞をバイオプリントした。そして、植物細胞バイオプリント後の生存率や、どのくらいの期間生きているかを調べた。また、細胞がどのようにしてアイデンティティや機能を獲得し、変化していくのかも調べた。インクは一般の3Dプリンティングとは異なり、インクやプラスチックの代わりに「バイオインク」、つまり生きている植物細胞を使う。

細胞壁のないプロトプラストを、栄養素、成長ホルモン、アガロースという海藻由来の増粘剤とともにバイオプリントをした。アガロースは、建物の壁でレンガを支えるモルタルのように、細胞に強度と足場を与えるのに役立つ。こうして自然環境を模倣することで、細胞のシグナルや刺激を土の中と同様に発生させることができる。実験の結果、3Dバイオプリントされた細胞の半分以上が生存し、時間の経過とともに分裂して細胞の小さなコロニー(microcalli)を形成した。

さらに、個々の細胞をバイオプリントして、それらが再生できるか、つまり分裂/増殖が可能かどうかも検証した。結果、シロイヌナズナの根と芽の細胞は、最適な生存能力を得るために異なる栄養素と足場の組み合わせを必要とすることが分かった。一方、ダイズ胚細胞の40%以上は、バイオプリント後2週間経っても生存していた。また、時間の経過とともに分裂して細胞の小さなコロニー(microcalli)を形成した。

最後に、バイオプリントされた細胞のアイデンティティを調べた。シロイヌナズナの根の細胞やダイズの胚細胞は、増殖率が高く、アイデンティティが固定されていないことが知られている。つまり、動物やヒトの幹細胞のように、これらの細胞は異なる細胞になることができる。バイオプリントされた細胞は、幹細胞のアイデンティティを持ち得ることが分かった。つまり、分裂し、成長し、特定の遺伝子を発現するという。

今回の研究は、制御された環境下で植物細胞の生存能力とコミュニケーションを支援するために、必要な最適化合物を特定するのに、3Dバイオプリンティングを利用することに大きな可能性を示すとしている。

研究成果は2022年10月14日付で『Science Advances』に掲載されている。

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