168個のブロックを組み上げて大きな3Dプリント植木鉢を作る

幾何学っぽいデザインの植木鉢が好きなのですが、大きいサイズだとなかなか見つかりません。以前3Dプリンターで小さな植木鉢を作ったこともあり、「ないなら3Dプリンターで観葉植物用の大きい植木鉢を作ろう!」と思い立ちました。でも、作りたいサイズは直径約40cm。家の3Dプリンターでは大き過ぎて出力できない……。そこで、建築用レンガを参考に、3Dプリントでブロックを作り、ジェスモナイトという水性プラスチックで固める、という方法にチャレンジ。耐水性もばっちり、重くもない、大きな植木鉢を作りました。

3Dプリント植木鉢のでっかいやつを作りたい

夏ににょきにょき伸びた我が家の観葉植物。今の鉢サイズでは窮屈そうになってきました。新しい植木鉢が必要です。

そんなときに頭をよぎったのが3Dプリント製の植木鉢。陶器などの植木鉢にはない複雑なデザインがかっこいい上に、軽かったり通気性が工夫されていたりと機能面の良さがあるものもあり、魅力的なのです。「3Dプリント製の植木鉢かっこいいな~、自分でもデザインして作ってみたい!」と、植木鉢を購入するのではなく、3Dプリント植木鉢を自分で作ることにしました。

でも、作りたい植木鉢のサイズは直径約40cm。対して私の3Dプリンターのテーブルサイズは約20cm四方。出力できません。どうしようかなと悩んでいるときにSNSで見かけたのが3Dプリント製品をコーティングしている画像。コーティングに使われているのはジェスモナイトという、水性のプラスチック素材でした。これを使ってみよう!

というわけで3Dプリント+ジェスモナイトで植木鉢づくりを考えます。3Dプリントパーツを分割して出力し、周りをジェスモナイトでコーティングすることで、強度を増しつつ、植木鉢らしい質感に仕上げる作戦です。

実験したら問題発生! 方向転換

ジェスモナイトとはどんな素材なのでしょうか? 公式Webサイトでは、以下のように紹介しています。

JESMONITEは反応性ミネラルベースと純粋な水性アクリル樹脂からなる複合造形マテリアルです。ジェスモナイトは樹脂でありながら、従来の一般的な油性樹脂とは質感が異なり、プラスチック特有のテカリ感がほとんどなく、石のような落ち着いた風合いをもつ素材です。アート、彫刻、家具、内装、ディスプレイ、アクセサリー、建築など、幅広い用途の立体物制作に使用可能です。
ジェスモナイトとは

Maker Faireで固めた実物を見ましたが、確かに優しい雰囲気のある質感でした。まずは使ってみましょう。

調べたところ、上記のコーティングに使われていたのはAC100という製品でしたが、こちらは耐水性がなく、植木鉢には向いていなさそう。そこで、耐水性があり屋外でも使えるAC730という製品を購入しました。余裕をもって6kgのセットを選びました。値段は8690円(税込)。AC730はAC100に比べ粘度が高いと書かれていたので、セットに加えて粘度低下剤を追加しました。

まずは実験。SNSで見たコーティングをAC730でトライしてみます。材料はAC730のベースの粉、AC730リキッド、粘度低下剤、3Dプリントしたミニ鉢です。

バケツのようなものに入っているのがベースの粉。隣のボトルがリキッドです。赤いラベルは粘度低下剤。青いのは色付け実験用の顔料です(使うのを忘れていました)。

それぞれ重さを計量して混ぜます。感触はモルタルのような感じで、細かな粒感、ざらつきを感じます。3Dプリント製のベースに流してみますが……全然流れません! 無理やり塗り付けてみるも、SNSで見た写真とは全然違うものに。

AC730では、全体の表面をコーティングする当初の方法は難しそう。3Dプリントしたブロックを組み上げたベースに内側からジェスモナイトを塗り込め、隙間にジェスモナイトを詰めるような形で固めることにしました。

168個のブロックで作る植木鉢

3D-CADでブロック部分を設計します。個人的に3Dプリント植木鉢で好きなデザインは幾何学っぽい形の繰り返し。繰り返し感を出しつつ、ほぼ1種類のブロックで作れるもの、ということでこんなデザインになりました。

ブロックのデザインは、塀や花壇を作るときに使うレンガやコンクリート製のブロックのデザインを参考にしました。「Bricking pattern」などで検索するとさまざまな形のブロックがあり、ずっと眺めてしまいます。

作ったのは、Zに似た形のブロック。円柱状の突起部分でジョイントします。隣同士のブロックの角度は自由に変えられるので、同じブロックでさまざまな直径の植木鉢を作ることができます。

設計を終えたら、あとはひたすら3Dプリンターで出力。1段24個、7段で合計168個のブロックが必要です。毎日寝る前に印刷して朝取り出し、出勤前に印刷して夜取り出し、を繰り返す日々でした。使った材料は1kgフィラメント約2巻き(約5400円)。総印刷時間は160時間以上。3Dプリンターさんお疲れ様です。

山盛りのパーツ。底は4分割で3Dプリント。さらに補強のためにレーザーカットした一枚板を重ねることに。

ブロックを組み上げ、ジェスモナイトで固めるが…

ブロックのジョイント部分をはめ込み、ベースを作っていきます。1時間かけて168個のブロックをはめ込めば、そこには大きな物体が! 自分が3Dプリンターで作った物としては過去最大サイズです。

ジョイントで止まっており、持ち上げても崩れるようなことはありません。思ったよりしっかりしています。このままでも植木鉢カバーとして使えそう。ただ、力をかければ少しゆがみますし、上下方向に引っ張れば抜けてしまいます。

完成したベース。作り上げるまで長かったですが、それ相応の存在感があり、やり遂げた感があります。

ということで、補強と穴埋めを兼ねて、ジェスモナイトで内側を塗り固めていきます。まずはストレッチフィルムで外側をぐるぐる巻いてジェスモナイトが流れ出ないようにします。

ベースの準備ができたら、それぞれの材料の重さを測って作業開始。粉、リキッド、粘度低下剤をバケツに入れてヘラで混ぜ混ぜ。Webサイトでは攪拌(かくはん)器の利用をおすすめしていますが、家にあったヘラでがんばることにしました。しかし、これが間違いだったことに後で気付きます……。

粉と液体を混ぜ合わせますが、始めはポロポロしていて「材料の配合を間違えたか?」と不安になりました。

しかし、そのまま混ぜ続けるともったりとしてきます。この状態に行きつくまでが大変! ヘラが小さかったこともあり、時間がかかってしまいました。さらには途中でヘラが折れ……最後には半分手でやるような形に。苦労しつつも混ざったジェスモナイトを別のヘラでベースの内側の壁に塗り込みます。

始めは調子よく塗っていたのですが、途中からなぜか塗りにくくなり、しばらくすると団子状にボロボロしてきました。作業している間に固まり始めてしまったのです。ピンチ! そもそも混ぜるのに使ったヘラが小さかったため、混ぜる時点で結構時間を使ってしまったことや、11月なのに25℃と暑い日だったのも原因でしょう。最後のあたりは力づくでなすり付けてなんとか形にしました。バケツの中で固まって使えなくなった分が5分の1くらい出てしまい、とてももったいなかったです……。

当初想定していたほどジェスモナイトが前面には出てきませんでしたが、しっかり隙間を埋められています。

壁部分は終わりましたが、まだ底が残っています。壁の敗因は攪拌時のか弱さ。同じ失敗を繰り返さないよう、秘密兵器、攪拌用のドリルアタッチメントを購入しました。底の塗りはこれで臨みます。

639円とお手頃価格。先に買っておけば良かったです。

インパクトドライバーにこのアタッチメントを付けると効果抜群。みるみるうちに粉と液が混ざっていきます。

素早くかき混ぜたので固まるまでの時間が延びたためか、よりしっかり攪拌されたためか、粘度が前回より低いです。少し流れるような感じもあり、小さな隙間にもしっかり入っていきます。

壁に比べるときれいに塗り込めることができました。壁も、このやり方なら想定通りジェスモナイトが前面に見えるようにできたかも。

1日放置して乾いたら完成! 大きいですが、陶器の植木鉢のように重くはなく、簡単に持ち上げられる軽さです。3Dプリントパーツだけのときは力を加えるとゆがみましたが、固めた後はしっかりと形が維持され、強度も問題なさそうです。植物を元の植木鉢ごと入れてみます。なかなか良い感じですね。

観葉植物を新しい植木鉢に移す

出来上がった植木鉢にいよいよ植え替えです。やはり前の植木鉢では根の成長が限界だったようで、根が全体に張っています。新しい植木鉢は一回り余裕があり、根が成長する余地が生まれました。

上にも隙間にもしっかり土をかぶせたら、最後に水をたっぷりやって植え替え完了! 以前の植木鉢より見た目も良くなったし満足です。最近あまり元気がなかったので、これで元気になってくれるといいなぁ。

内側のジェスモナイト部分がちらっとのぞくスタイル。

これまで注型剤は何種類か使ってきましたが、樹脂系の注型剤は危険物指定のものが多く、取り扱いに気を遣う一方、水と混合するだけのお手軽な石こうなどは、強度が弱かったり用途が限定されたりというイメージがありました。

ジェスモナイトは石こうのような手軽さで、樹脂の良さを使える点で面白い材料でした。質感が石材のようになるのも良かったです。今回はジェスモナイトの質感を表に出せず、ポテンシャルを生かしきった使い方はできなかったですが、今後活用したい良い材料と出会えました。

fabcrossより転載)

関連情報

168個のブロックを組み上げて大きな3Dプリント植木鉢を作る(掲載元: fabcross)


ライタープロフィール
むらさき

「自分が必要なものを作る」をテーマに衣食住に関わるものを作るコミュニティFARMTORY-LABを主催。シェアハウスをベースに電子工作やデジタルファブリケーションを使いつつ植物を育てたり、服やバッグを作ったりしている。MakerFaireTaipei等、ものつくりイベントに出展、登壇等。

ゼンリンでの商品企画職を経て、「ほぼなんでも作る」講座FabAcademyでデジタルファブリケーションを学びFabMasterに。現在はフリーランスとして、企画・デザイン・プロトタイプ制作・ライティングなどを行う。


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