環境温度に関わらず、力を加えて熱を取り出せる蓄熱材料を開発――TiNi系相変態合金を採用 産総研

産業技術総合研究所(産総研)磁性粉末冶金研究センターは2023年3月8日、TiNi系相変態合金を用いることで、これまで蓄熱、放熱ができなかった温度域で動作する蓄熱材料を発表した。開発した合金は環境温度に関わらず、外力を加えることにより蓄えた熱を取り出せる。

従来の蓄熱材料は、水やパラフィンなどの相変化での融解や凝固に伴う潜熱を利用する。このため、材料の吸放熱は一般的に、周囲がある決まった温度にならないと起きない。また、吸熱と放熱温度に大きな違いはなく、熱を蓄えた時と同じ温度になると放熱されてしまうことから、空間や時間をずらして使える温度帯が限定される。

こうした問題を解決するため、固体における相変態を利用し、応力などの外場で相変態温度を制御し、熱を意図した時にいつでも取り出せる材料を開発していた。

産総研では蓄熱材料の用途として、TiNi系マルテンサイト合金に着目した。これまで蓄熱材料は、液体と固体の相変化が利用されてきたが、相変化材料は、動作温度を用途に合わせて変えることが難しいことに加え、実際に利用したい低温まで保持できなかった。

しかし、TiNi系合金は昇温すると、固体のまま結晶構造が低温相から高温相に相変態する。また、高温相は、低温相へ人間の力程度の応力(数十kg程度の物体を持ち上げる力)を加えることで相変態できる。相変態は、潜熱による自発的な吸・放熱を伴うため、蓄熱に利用できるが、これまでのTiNi系合金は、実用に必要な潜熱が得られず、吸熱と放熱の温度差による制御もできなかった。

今回の研究には、組成を変え、蓄熱能力が大きくなる合金を使用。合金内部の残留応力を利用し、放熱や吸熱の温度を変化させ、吸・放熱の温度差も調整できる材料を開発した。

これまでの固体-液体の相変化を利用する場合、ほとんど吸・放熱温度に差がないが、今回、その差を20℃以上にできる新規合金を開発。この温度間で蓄熱できる。さらに、得られた合金に対し、数百MPa程度の引張応力(直径1mm程度のワイヤーに数十kg程度の物体を持ち上げる力)を加えることで、相変態で放熱させ、合金内部の熱を取り出した。

今回開発した相変態型蓄熱合金に溜めた熱は、材料の温度が20℃以上も低下した低温環境でも保持され、熱を小さい力(120 N)で効率的に取り出せることを実証している。電気自動車の場合、動作ピーク時は高温に加熱するモーター等の排熱を蓄え、停止時などの低温環境下で、蓄えていた熱を小さい力で必要とされる部分に放出して供給できることにつながる。

今後、合金設計、加工熱処理の最適化により、動作温度を目的に合わせて調整できるようにしていく。また、蓄熱部材としての可搬性やモジュール化、応力動作に有効となる形状への加工自由度を活用し、コイルや薄板などの種々の形状への加工による部材化を目指す。

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産総研:温度によらず必要な時に力を加えて熱を取り出せる新規合金を開発

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