軽元素の水素を添加する方法で、酸化物の熱電変換効率を向上させることに成功 東工大

東京工業大学は2023年4月19日、同大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所と元素戦略MDX研究センターの研究グループが、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の多結晶体に水素を添加し、高性能熱電材料に必要な「低い熱伝導率」と「高い電気出力」を両立させることで、熱電変換の効率を向上させることに成功したと発表した。熱電変換技術のさらなる普及が期待される。

電気エネルギーとして廃熱を再利用するための熱電変換材料は、希少で毒性を有する元素を含むため、大規模な実用化への障害になっていた。そのため、この目的で利用される熱電発電素子には、安価で環境に害を与えない元素で構成され、室温から300℃の温度範囲で熱電変換効率が高い材料が必要となる。

SrTiO3に代表される酸化物熱電材料は、無毒で豊富な元素で構成される利点があるが、熱伝導率が高く、変換効率が低い問題がある。これまでSrTiO3の多結晶体の熱伝導率を低減させるために、さまざまな方法が取られてきたが、いくつかの課題があったことから、熱電変換の高性能化のために、低い熱伝導率と高い電気出力の両立が求められていた。

研究グループは今回、熱伝導率の低減に重元素を添加する従来の発想とは逆の発想を用いた。軽元素の水素を添加する方法で、SrTiO3の熱伝導率を低減させることを考え、金属箔でSrTiO3-xHxの圧粉体を密閉する工夫を施し、高温で焼結させ、高濃度に水素を含有した緻密なSrTiO3-xHx多結晶体を作製した。

水素を添加していないSrTiO3多結晶体は、室温の熱伝導率(κlat)が大きかったが、2.3%(x=0.068)の水素添加により、κlatが減少。水素の濃度を7.2%(x=0.216)に増やすと、さらに減少した。このようなκlatの低減は、室温だけでなく、高温の400℃までの温度範囲でも見られた。これにより、SrTiO3の熱伝導率が、水素の添加だけで大きく低減できることがわかった。

続いて、SrTiO3-xHxの多結晶体(x=0.068)について熱電変換効率を調べた。ランタン添加SrTiO3の多結晶体は、温度が下がると出力因子が下がってしまうが、水素添加SrTiO3-xHxの多結晶体は、温度が下がっても出力因子が増加。粒界の無いランタン添加SrTiO3単結晶に匹敵するほど高かった。水素を添加したSrTiO3-xHx多結晶体は、高い出力因子と低いκlatの両立により、ランタン添加SrTiO3多結晶体や単結晶よりも高い熱電変換効率を示すことがわかった。

SrTiO3-xHxの多結晶体における(a)出力因子、(b)電子移動度(重み付き移動度なのでドリフト移動度の約45倍の値になっていることに注意)、(c)熱電変換効率の温度変化。ランタンを添加したSrTiO3単結晶と多結晶の熱電特性を比較として示している。

軽元素を含む化合物は熱伝導率が高くなると考えられていたが、今回、水素の場合は逆の効果もあることを発見した。SrTiO3の酸素の一部を水素で置き換えたことにより、結合力の強いTi-Oと弱いTi-Hが混在した結果、熱伝導率が低下する。また、水素を添加したSrTiO3多結晶体は、電子伝導が結晶の粒界で阻害されず、単結晶材料に匹敵する高い電子移動度を示す。

今回の成果は、希少元素を使用せず、ありふれた元素で構成される高性能熱電材料の新たな設計指針となることが考えられる。今後、さまざまな酸化物に今回の成果を活かすことで、酸化物の熱電変換効率を更に向上させることが期待できる。

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従来の常識を覆す発想で酸化物の熱電変換効率を向上 水素を活用した環境調和型熱電材料の開発へ | 東工大ニュース | 東京工業大学

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