長期保存が可能な小型電池――芽胞形成菌による微生物燃料電池を開発

ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の研究チームが、長期間の保管が可能、かつ必要に応じて迅速に発電を開始できる、超小型携帯型の「微生物燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)」を開発した。バクテリアが有機物を分解する際に発生する電流を利用する微生物燃料電池において、熱活性により胞子を形成する種類のバクテリアを用いることで、長期間の保管と迅速な発電開始を可能にした。未開地や災害地域などエネルギー源の乏しい地域におけるLEDランプ、デジタル温度計や時計などの小出力デバイスへの応用が期待される。研究成果が、2023年3月18日に『Small』誌に論文公開されている。

バクテリアが細胞の呼吸により有機物を分解して二酸化炭素を生成する際に、プロトンと電子を放出することを利用して電力を得るMFCは、未開地や災害地域などエネルギー源の乏しい地域において、下水のようにどこにでもある生分解性有機物から電力回収できる特長がある。発生する電力や電流は小さいが、小出力デバイスを駆動するには充分な能力があり、活性汚泥法に代わる画期的な廃水処理技術に発展する可能性もあり、注目を集めている。

しかしながら、長期保管が可能であり、かつ必要に応じて迅速に発電開始できるようなMFCを構築しようとしても、バクテリアが短期間で死滅して実際に発電を必要とするまで保存できない、またバクテリアを保存できたとしても、発電機能を発揮するまでの立ち上がり時間が長い、などの問題があった。

研究チームは、このような課題に対して、食品製造過程の殺菌処理後でも長く残存して食中毒を起こすことで知られるボツリヌス菌など、高い耐熱性を有する芽胞を形成する種類のバクテリアに注目した。芽胞形成バクテリアの1つであるバシラス属枯草菌および特殊な有機物栄養素を組み合わせて、10セント硬貨ほどの大きさの燃料電池デバイスを構築し、高い耐久性のあるカプトンテープでシールした。

このデバイスは、テープを剥がすことで大気中の湿気が吸収されてバクテリアの芽胞形成が進行し、有機物の分解による発電が開始することを実証した。その結果、0.4mW/cm2の最大電力密度、および2.2mA/cm2の最大電流密度が得られることを確認した。更に、芽胞形成バクテリアは、加熱によって芽胞形成を加速する熱活性化現象を示し、ピーク電力発生に至る時間が1時間から20分に短縮されることもわかった。長期保管に関しては、室温における1週間の保管でも、発電能力は2%しか低下しなかった。

「実用化されている多様な電池の代用とするには、もっと急速に大きな電圧を発電する必要があるが、このアイデアを利用することで、例えば100年保管した後でも作動するような実用的な製品を開発できる」と、研究チームは期待している。

関連情報

Tiny biobattery with 100-year shelf life runs on bacteria | Binghamton News

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