電界放射顕微鏡を用いた単一分子の電子軌道のイメージングに成功し、原理を明らかに 筑波大学

筑波大学は2023年6月22日、電界放射顕微鏡という技術を用いて、針先に吸着した有機半導体分子から放射された電子(電界放射)を投影すると、単一分子の電子軌道をイメージングできることを発表した。今後の超原子分子軌道(SAMO)研究に有用なだけでなく、新たな動的イメージング手法としての応用が期待される。

急速に研究開発が発展しつつある、有機太陽電池や有機発光ダイオードなどの有機エレクトロニクスでは、有機分子の電子の軌道の「かたち」(電子軌道)が非常に重要だが、分子の電子軌道を可視化する方法は限られている。特に、実空間や実時間での分子軌道の動的イメージングは、分子の構造変化や反応を調べる上で非常に重要だが、困難だった。

研究では、探針先端のナノ構造を観察できる投影型の顕微鏡である電界放射顕微鏡(FEM)に注目した。これまで主に金属材料(探針)の構造観察に用いられてきたが、探針に分子を吸着させ、その分子から放射された電子(電界放射)の投影パターンを観察することで、分子の電子軌道のイメージングができると考えられる。投影される像には、分子の動きが反映される可能性もある。

しかし、FEMによる分子観察で特徴的なパターンが現れることは知られているが、パターン形成のメカニズムが分からず、応用には至らなかった。

研究では、探針にさまざまな有機半導体分子を精密蒸着し、FEM観察することで、いずれの分子からも対称性の良い特徴的な電界放射の投影パターンが得られることを示した。動画を観察したところ、パターンは単一分子の電子軌道を表したもので、分子の種類によらず球面調和関数の形状(直交する軸上に対称に球面が配置される)をとることがわかった。

この電界放射パターンは「電界放射角度分布(field emission angular distribution:FAD)と名付けられた。また、分子のSAMOの形状とFADがよく一致することを示した。FADと同時に、電界放射の印加電圧依存性やエネルギー状態を分析した結果、有機分子のSAMOを介して、探針からの電子が放出されていた。これらのことから、分子ごとに得られる特徴的なFADパターン形成のメカニズムは、分子のSAMOを反映したものだと言える。

今回の成果により、未だ十分に解明されていないSAMOの性質の研究が進展すると考えられる。また、今回の手法は、表面に吸着した分子の拡散や反応過程の動的観察に用いることもできるほか、単一分子の振動状態などの解析も可能になると期待される。

関連情報

電界放射顕微鏡による単一分子の電子軌道のイメージングに成功 – TSUKUBA JOURNAL

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