神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士准教授らと、大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗 教授らの研究グループおよび科学技術振興機構(JST)は平成29年4月10日、光触媒作用による水素生成量が1桁増加する光触媒を開発したと発表した。
水素は、再生可能エネルギーである太陽光と水から製造可能だ。このため次世代のエネルギー源として注目されており、水素を高効率に製造できる光触媒の開発が望まれている。光触媒に光が照射されると、触媒表面に電子と正孔(電子が抜けた孔)が生成し、この電子が水の水素イオンを還元することで水素が得られる。しかし従来の光触媒では、電子と同時に生成する正孔(電子が抜けた孔)のほとんどが触媒表面上で再結合し消失してしまうため、水から水素への光エネルギー変換効率が伸び悩んでいた。
今回、同研究グループでは、粒子の配列を三次元的に制御し、電子と正孔を空間的に引き離す「メソ結晶化技術」を開発した。メソ結晶とはナノ粒子が規則正しく三次元的に配列した結晶性の超構造体だ。同研究グループは、このメソ結晶に存在するナノメートルスケールの空間を利用し、結晶上に同じ方位をもった複数の結晶を配列、成長させる「トポタクティックエピタキシャル成長」という新しい合成法を開発した。
この合成法により、テンプレートとなる酸化チタン(TiO2)メソ結晶から、結晶構造の異なるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)メソ結晶を、容易に1段階の水熱反応で合成することに成功。さらに、反応時間を長くすることで、表面近くの粒子だけ結晶の向きを揃えたまま大きく成長させることができた。
このSrTiO3メソ結晶に助触媒を付着させ、水中で紫外光を照射したところ、約7%の光エネルギー変換効率で反応が進行することがわかった。同条件でメソ結晶化していないSrTiO3粒子について実験を行った場合、効率は1%に満たなかった。このことは、メソ結晶化により反応効率が1桁向上したことを示している。
また、粒子を蛍光顕微鏡で観察したところ、生成した電子は表面の比較的大きなナノ結晶に集まることが示された。これらのことから、今回開発された光触媒では、紫外線照射で生成した電子はメソ結晶内部のナノ粒子間を効率よく移動し、消失することなく表面露出した比較的大きなナノ結晶に集まり、高い効率で水素イオンを還元し水素を生成することがわかった。
今回の研究で見いだされたメソ結晶の高い光触媒活性は、メソ結晶の規則的な構造をあえて崩すことから産み出されたもので、これまでにない新しい材料設計指針の開拓につながるものだという。また、ビルディングブロックであるナノ結晶の大きさと空間配置を制御するだけで、既存システムの光エネルギー変換効率を大きく向上できる可能性が示されたとしている。
今後、同研究グループでは、このメソ結晶化技術を可視光応答型光触媒に応用することで、太陽光でのエネルギー変換の高効率化を目指す。また、今回の研究で対象としたSrTiO3を含むペロブスカイト型金属酸化物はエレクトロニクス素子の基幹物質であることから、幅広い分野への応用展開が期待できるとしている。