3GeV高輝度放射光施設にて、3GeV電子の入射および蓄積に成功 QST

量子科学技術研究開発機構(QST)は2023年7月14日、3GeV高輝度放射光施設「ナノテラス」円型加速器において、3GeV電子の入射および蓄積に成功したと発表した。

ナノテラスは、軟X線に強みを有する3GeV高輝度放射光施設だ。「巨大な顕微鏡」とも称されており、官民地域連携のもとに実用化に向けた整備が進んでいる。

放射光施設は、電子に加速エネルギーを付与する線型加速器、加速した電子ビームを蓄積するとともに放射光源となる円型加速器、放射光実験の場となるビームラインで構成される(冒頭の画像)。

円型加速器に3GeV電子が蓄積されると、約86万周/秒で回転して放射光を発生する。しかし、放射光発生によりエネルギー損失も生じ、徐々に周回軌道が内側にシフトして最終的には3GeV電子が失われる。このため、円型加速器に3GeV電子を入射するだけでは電子を蓄積することができない。

ナノテラス円型加速器


ナノテラス円型加速器トンネル内の様子

このエネルギー損失を補填するためには、正負の交互電場を高周波で発生する蓄積リング用加速空胴を軌道上に設け、適切なタイミングで入射することが求められる。

ナノテラス円型加速器は、線型加速器から円型加速器への電子ビーム入射部、電子ビームを円型加速器の理想軌道周囲に閉じ込め、その高輝度性能を決定づけるMBA磁石列、電子ビームエネルギーを3GeVに維持して電子蓄積を実現する加速空胴と蓄積電子の放射光モニタ部で構成される。

MBA磁石列


蓄積用加速空胴

同研究チームは今回、線型加速器で生成した3GeV高密度電子ビームを円型加速器に入射し、約300周回させることに成功した。

その後、加速空胴に電場を印加し、3GeV電子ビームの加速空胴電場位相に対するタイミングを、ビーム位置モニタの電子ビーム周回数が増える方向に調整することで、入射した3GeV電子が円型加速器を周回し続ける電子蓄積に成功している。

また、電子ビームモニタ用の放射光も観測した。

(左上)加速空胴オフで3GeV電子を円型加速器に入射すると、約300周回の間に減衰して消失する。
(左下)加速空胴オンで加速位相に対する入射タイミングを調整すると、蓄積されて位置モニタ信号が連続的になる。
(右)蓄積時には電子ビームモニタ用放射光も観測された。

MBA磁石列は、4台の偏向磁石、10台の四極磁石、10台の六極磁石で構成される。電子ビームの空間広がりを抑制できるため、周長の短縮によるコンパクト化と、高輝度放射光発生の両立が可能となった。

今回円型加速器で蓄積した電子数は数億個に留まっているが、最終目標は数千倍の数兆個だ。同研究チームは今後、「真空焼出しプロセス」を繰り返して蓄積電子数を増やす方針を立てている。

同プロセスでは、直線部に設置するアンジュレータなどを放射光源として使用し、偏向磁石で生じる放射光を全て円型加速器の真空容器内の放射光アブソーバで吸収させる。

蓄積電子数が増えるにしたがって、放射光刺激によりアブソーバ内に吸着したガスが脱離し、真空度が悪化する。やがて、アブソーバ内のガスが枯れて真空悪化が緩和されることで、蓄積電子数の増加が可能となる。

このプロセスに加えて、電子ビーム軌道の調整や性能確認、X線光源となるアンジュレータの調整を進めることで、2024年度の運用開始を目指す。

関連情報

3GeV高輝度放射光施設ナノテラスの最新円型加速器において3GeV電子蓄積に成功 – 量子科学技術研究開発機構

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