- 2024-6-28
- 技術ニュース, 電気・電子系
- PCE, Ter-D18:Y6, エネルギー変換効率, 伸縮性有機太陽電池, 引張ひずみ, 有機太陽電池, 理化学研究所, 理化学研究所創発物性科学研究センター, 理研, 発電層, 発電層材料, 研究, 透明電極
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターの国際共同研究グループは2024年6月27日、高性能かつ伸縮する有機太陽電池を発表した。発電層の機械的特性に依存せず、デバイス全体に伸縮性を付与するもので、他の発電層材料にも適用できる。
有機太陽電池は柔軟性に優れているが、ウェアラブルセンサーの駆動用電源として使用するには、高いエネルギー変換効率(PCE)だけでなく、連続的な身体の動きでデバイスに加えられる引張力から生じるひずみ(引張ひずみ)に耐えられる、機械的な強靭さが必要となる。
有機太陽電池は、基板と、基板上に透明電極と上部電極を備え、透明電極と上部電極の間には、発電層と正孔輸送層、電子輸送層が成膜されている。このうち、透明電極以外は所望の性能を持ちながら伸縮性もある材料のめどが付いている。一方で透明電極は、透明性、導電性、伸縮性の三つを備える材料が見出されていない。
研究では、高いPCEを有しながら、引張ひずみに対する高い耐久性を持つ伸縮性有機太陽電池を開発した。この伸縮性有機太陽電池は、ポリウレタン基板上に、透明電極、正孔輸送層、発電層、上部電極の順に積層されている。
透明電極は、導電性高分子材料「PEDOT:PSS」に「ION E(4-(3-エチル-1-イミダゾリオ)-1-ブタンスルホン酸)」を添加した。異なる引張ひずみ下での電気的および機械的特性(伸縮性)を評価するため、透明電極を塗布成膜手法により、10μm厚のポリウレタン基板上に溶液から均一に成膜した。その結果、ION Eを添加した透明電極は、大きな引張ひずみ下でも亀裂の進行が著しく抑制された。
ポリウレタン基板と透明電極との間の界面の特性評価では、ION Eの添加による導電性PEDOT:PSSの分子構造および結晶構造の変化に加え、導電性PEDOT:PSS内、および導電性PEDOT:PSSとポリウレタン基板との間の二つの分子間相互作用を精査。ION Eを含まない導電性PEDOT:PSSの接着力(1.15nN)は、ION Eを含む導電性PEDOT:PSSの接着力(5.66 nN)よりも大幅に低かった。
界面接着力の評価では、ION Eを含むサンプルに適用された力(80Nより大)が、ION Eを含まない試験片に適用された力の2倍以上であることを示した。堅固な界面接着は剥離を抑制し、ポリウレタン基板への機械的応力を分散させる。そのため、透明電極の面内亀裂の駆動力が減少し、亀裂の発生と伝播が遅れ、透明電極の伸縮性が向上した。
今回開発した伸縮性有機太陽電池の発電層は、二つの高効率ドナー材料(PM6とD18)を混ぜてランダム三元共重合ポリマードナー「Ter-D18」を合成し、低分子アクセプター材料「Y6」と混合し、Ter-D18:Y6を作製した。
Ter-D18:Y6から成る発電層と透明電極とポリウレタン基板とを備えた複合フィルムのCOS値は、PM6:Y6から成る発電層と透明電極とポリウレタン基板を備えた複合フィルムのCOS値と比べ、発電層の機械的特性が改善されていた。さらに、引張り応力下にある複合フィルムの光学顕微鏡画像を撮影して比較した結果、ION Eを添加した透明電極を含む複合フィルムは、亀裂の伝播が著しく抑制された。
ION Eを含む伸縮性の高い透明電極は、発電層内の引張ひずみを効果的に非局在化して再分散する。亀裂の発生と伝播をそれにより遅らせ、伸縮性有機太陽電池全体の機械的完全性(高い伸縮性)を保証することを確認できた。
太陽電池性能の評価では、初期性能と伸縮性の優れた組み合わせを示し、PCEがこれまでに報告された全ての高性能伸縮性有機太陽電池の性能を上回っている。伸縮サイクルにおける伸縮性有機太陽電池の機械的耐久性を見ると、Ter-D18:Y6から成る発電層を備えた伸縮性有機太陽電池は、10%および20%の引張ひずみの100サイクル後も、初期PCEの95%および85%をそれぞれ維持し、顕著な伸縮サイクル耐久性があることを確認している。
研究で提案した設計戦略は、他の優れた発電層材料の伸縮性の向上にも適用できる。伸縮性有機太陽電池の開発に新たな道を開くことが期待される。