巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の合成に成功 京大など研究グループ

京都大学は2023年9月29日、大阪大学や広島大学、東北大学などと共同で、水素層と酸素層が交互に積み重なった、新しいペロブスカイト型の酸水素化物を合成することに成功したと発表した。この酸水素化物に、外圧や薄膜基板からの応力を与えると、水素層から酸素層へ電子が移動することによって、ネオジム磁石に匹敵する巨大な磁気異方性が垂直方向に発生する。研究グループは、このような水素層と酸素層の協奏効果を使って、今後も多彩な機能の創発が期待できるとしている。

今回、研究グループは、EuVO3という酸化物に、金属水素化物CaH2を用いた還元反応を行うことで、EuVO2Hという新しいヒドリド含有酸化物(酸水素化物)の合成に成功した。EuVO2Hの結晶構造はペロブスカイト型という結晶構造をしているが、固溶したヒドリド(Hイオン)はバナジウムイオン(V3+イオン)の上下に選択的に配置するため、EuVO2Hは水素層(EuH層)と酸素層(VO2層)が交互に積層した二次元的な結晶構造の化合物と考えられる。

研究グループは、EuVO2Hのこのような層状構造と、サイズ柔軟性なHイオンの性質に着目し、圧力を加える実験を行った。すると、圧力下においてEuH層とVO2層の間で電子が移動し、電気を通さない絶縁体だったVO2層が電気を通す金属になることを確認した。同様の効果は、EuVO2Hを薄膜にして基板から応力を加えても発現させることができた。

このような圧力下の電子移動は、酸化物にも見られることが知られていたが、複雑な結晶構造のものが多く、十分に明らかにできていなかった。その点、EuVO2Hは二次元的な結晶構造になっていることからメカニズムを理解しやすく、EuH層とVO2層が交互に積層することで誘発された現象と考えられる。

また、EuVO2Hはユウロピウムイオン(Eu2+イオン)によって磁石としての性質(強磁性)が現れるが、基板から応力を加えたEuVO2H薄膜に、垂直方向と水平方向にそれぞれ磁場を印加する実験を行ったところ、大きな磁気異方性が現れることが分かった。しかも、その異方性は垂直方向に向きやすいという特徴があった。

こうした異方性は、「垂直磁気異方性」と呼ばれ、磁気データストレージの大容量化やスピントロニクス応用への活用が期待されている。

研究グループは、今回の成果について「ユビキタスな三次元ペロブスカイト酸化物を金属水素化物と反応させる手法を用いることで、酸化物にヒドリドを固溶し、ヒドリドが秩序配置した新しい層状構造の新物質を開発することに成功した」とし、これをもとに、さらに新しい発想で物質を開発するための新たな指針を生み出せる可能性があるとしている。

研究成果は9月29日、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。

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巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の発見 ―水素層と酸素層の協奏効果―

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