コバルト不要の超高エネルギー密度リチウムイオン電池を実現 東京大学

東京大学は2023年10月20日、環境負荷が大きく高価なコバルトを一切含まないにもかかわらず、従来よりも1.6倍高いエネルギー密度を有するリチウムイオン電池を実現したと発表した。地政学的リスクの高いコバルトを使わずに、高電圧と高容量を担保する現実的な高性能蓄電池の開発を可能にする成果で、持続可能な社会実現への貢献が期待される。研究成果は10月19日付の英国の学術雑誌Nature Sustainability電子版に掲載された。

電池の作動安定性を向上させるには、エネルギーを蓄積したり取り出したりするための反応のみを起こし、それ以外の反応(副反応)をできるだけ抑制する必要がある。副反応には電解液が起こす副反応と、電極が起こす副反応の2種類があるが、これまでの研究では電解液の改善が主眼に置かれることが多かった。しかし、最近、東大の研究グループによって、電極電位と連動する電極が起こす副反応の存在が明らかになり、そのメカニズムも解明された。

こうした成果を受け、研究グループはコバルトを使用しないリチウムイオン電池としては従来比1.6倍のエネルギー密度を有するものの、高電圧作動時の劣化を抑制することができなかったLiNi0.5Mn1.5O4|SiOx電池の安定作動を実現するため、電解液と電極が起こすそれぞれの副反応を同時に抑制し、電圧制限撤廃を可能にする新たな電解液をゼロベースで設計した。

具体的には、①プラス極側で副反応が起きない溶媒の採用 ②マイナス極側で副反応を防止する保護被膜を形成できるリチウム塩の選択 ③マイナス極の副反応を抑制しつつ、プラス極側でも副反応を起こさないためのリチウム塩の濃度制御の3点を、総合的に考慮して最適化した。

この電解液を用いることで、SiOx負極表面への膨張収縮耐性付与や、正極からの遷移金属溶出防止、アルミニウム正極集電体の腐食防止などの効果も確認され、LiNi0.5Mn1.5O4|SiOx電池など高電圧電池特有の問題を一挙に解決。実用レベルの安定作動に初めて成功した。

コバルトは、リチウムイオン電池のプラス極の安定性と機能性を向上させるのに欠かせない元素として、1991年の商品化当初から現在まで使われてきた。しかし、コバルトは高価な希少金属で、環境汚染の危険性も指摘されている。さらに、生産量の7割以上が政情不安定なコンゴ民主共和国で産出されていることから、価格が安定しないという問題も抱えている。このため、コバルトを使用せず、安価で高い安全性と耐久性を実現するリン酸鉄リチウムを正極に採用したリチウムイオン電池の普及が進んでいるが、リン酸鉄リチウムを採用すると、エネルギー密度が20%程度低下するという課題がある。こうしたことから、コバルトを使用せず低価格でありながら高エネルギー密度を担保する理想的な蓄電システムとして、高電圧を発生するLiNi0.5Mn1.5O4正極と高容量のSiOx負極から構成される電池が提案されたものの、高電圧作動時の劣化を抑制できず、安定作動が困難だった。

研究グループは「LiNi0.5Mn1.5O4|SiOx電池の安定作動を可能にした作動電圧限界の撤廃は、現行型を含むさまざまな電池のエネルギー密度と信頼性の向上に寄与すると期待される。これによって広範な分野への蓄電池の導入が進めば、低炭素・持続可能な社会の実現に大きく貢献するだろう」としている。

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コバルト不要の超高エネルギー密度リチウムイオン電池 ― 新たな設計指針により電圧制限を撤廃 ―|プレスリリース | UTokyo-Eng

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