ボールミル法により、リチウムイオン電池向け高性能電極の合成に成功

英バーミンガム大学の研究チームが、リチウムイオン電池の電極スラリーを製造するボールミル法により、正極の大容量化に適した高圧スピネル結晶構造が得られ、ボールミル加工におけるダイナミックな衝撃圧力効果が重要であることを発見した。モリブデン酸リチウム(Li2MoO4)が、高温高圧プロセスでしか得られなかった高圧スピネル構造に、数分間のボールミル加工で相変態することを見出し、単に局所的に発生する熱エネルギーだけでは説明できないことを明らかにした。低コストでエネルギー効率の高い電極材料の製造プロセス開発、および新しい電極材料探索に可能性を広げるものと期待している。研究成果が、2023年9月29日に『RSC Energy Environmental Science』誌に公開されている。

リチウムイオン電池正極材料の主な合成法としては、固相反応法、ゾルゲル法、共沈法、水熱法、噴霧熱分解法などがある。原料粉末を混練し電極スラリーを製造する方法として、電池性能向上に有効なナノ粒子化を実現するボールミル法も活用され、リチウムイオン電池の次世代材料を作製する上で、今後大きく発展すると考えられている。ボールミル法は非常に簡潔なプロセスで、原料粉末粒子と小さなセラミックなどの硬質ボールを、円筒容器内で混合し高速回転させることによって、材料をすり潰して微細な化合物粉末を合成するものだ。ボールミル法を用いたナノ粒子の合成によって、大容量を特徴とした不規則岩塩構造の電極材料が合成されている。

ボールミル法における高性能電極材料の合成については、発生する局所熱によって生じると考えられてきたが、研究チームは、粉末粒子と硬質ボールの衝突によるダイナミックな衝撃波が圧力効果を生じて、材料の構造変化をもたらす重要な役割を果たしていることを偶然発見したという。バッテリーにおける酸素レドックスについて研究するため、モデル系としてLi2MoO4をボールミル加工していた際、これまでは高温高圧装置を用いて1万気圧以上の高圧条件でしか実現できなかった特別な結晶構造、即ち高圧スピネル構造に相変態することを見出した。そして、この変態を局所熱だけで実現することは不可能で、原料粉末粒子と硬質ボールの衝突による衝撃圧力効果が必要であるとの結論に達した。他の3種類の電極材料についても同様の実験を行い、仮説を実証する同様の結果を得て、「5分間という短時間のボールミル加工によって、通常はエネルギー集約型の特殊な高温高圧装置を必要とする相変態を実現できることが明らかになった」と説明する。

研究チームは、「この発見および知見によって、低コストでエネルギー効率の高いバッテリー材料の製造プロセスの開発、および新しいバッテリー材料探索への可能性が広がった。将来的には、ボールミル加工におけるダイナミックな衝撃圧力効果によって、ナノ粒子の表面構造の改質による電池性能向上も可能だろう」と、期待している。

関連情報

Ball milling provides high pressure benefits to battery materials – University of Birmingham

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