ノイズが出れば叩いて直す! レトロテレビ風のデジタルフォトフレーム

幼少期の生活を思い出してみる。昔住んでいた家の記憶と共に思い浮かぶのは、居間にあった家具調テレビである。

昔のテレビは、現代のテレビとは違って操作に対する感触があった。電源を入れるときは、大きなボタンを「カチッ」と押し込む。チャンネルを変えるのも「ガチャガチャ」と音を立てるダイヤル操作だった。

また家具調テレビと言うだけあって、本体には木が使われていた。真っ黒な薄型テレビが主流となった今にして思えば、味がありすぎる家電である。

その時代の個性的なデザインやインターフェースを、何か別のものに応用できないだろうか。思い付いたのは、「デジタルフォトフレーム」との融合であった。

見た目はレトロテレビ、中身はデジタルフォトフレーム!

今回作ったのは、レトロなテレビみたいな外見をしたデジタルフォトフレームである。外見だけでなく、操作もレトロテレビ風。チャンネルのダイヤルをガチャガチャと回すことで、写真を次々と切り替えられるようになっている。

これがレトロテレビ風のデジタルフォトフレームだ!

外装の表面には木を使うことで、家具調テレビの本物っぽい質感を生み出せた

サイズはこれくらい。かわいい

昔のテレビの写真をいろいろと見ながら、「これがあればレトロなテレビっぽいな」という要素を自分なりに抽出していった。なので、特定の機種を再現したわけではなく、さまざまな機種/メーカーのテレビをキメラ化したオリジナルデザインとなっている。

操作はシンプル。ダイヤルやスイッチが4つあるけど、用途があるのは2つだけ

まずは上のダイヤル。カチカチと回すと……

表示する写真を切り替えられる

デジタルフォトフレームで写真を切り替える操作を、テレビのチャンネル切り替えみたいにしてみた。たったそれだけなのだが、次々と写真を送る操作がすごく気持ちいいのだ。

ダイヤル部分にはロータリーエンコーダーという部品を使っていて、弱いながらも「カチッ」というクリック感がある。今だと「次の写真に切り替える=タッチパネルのフリック操作」が基本だけど、そこに足りていないのは触覚へのフィードバックなのだと感じる。操作に対して何らかの感触があるというのは心地良いものだ。

ちなみに、写真を切り替えるときのエフェクトにもこだわっている。

切り替わる瞬間をスローで見ると、こうなっている

白い線がシャーッと入るような“アナログっぽいノイズ”ではなく、ブロック状にバグったみたいな“デジタルっぽいノイズ”にしてあるのは、サイバー感を出したかったからだ。外見はアナログ、中身はデジタル、という新旧の融合が、なんとも言えない良さを生むのである。あと、こういうノイズが個人的に好きというのもある。

デジタルノイズを上手く使う

このノイズをさらに味わえるようにしたのが、チャンネルダイヤルの下にある第二のダイヤルである。

下のダイヤルは、無段階にグリグリ回るようになっている。これもロータリーエンコーダー

テレビの場合、メインのチャンネルダイヤル(VHFのチャンネル)の下にあるのは、UHFのチューニングをするダイヤルであることが多い。ここを回して微調整しながら、ノイズが少なくキレイに映るポイントを探るのだ。

それをデジタルフォトフレームに応用するとこうなる。

回転に合わせていろんなノイズが出てくるので、ノイズが一番少なくなるように調整する

なんとも面倒くさいデジタルフォトフレームである。でもこれだけでは終わらない。さらに面倒な機能も追加してみた。

定期的に表示が大きくバグるので、テレビを叩いて直す機能

昔のテレビには、「ノイズが酷くなると叩いて直す」という荒療治があった。実際に叩くとどれだけ直ったのかは定かではないが、「叩く」という暴力的な動作が家電に対して行われるのは面白い。それを取り入れてみた。

内部には加速度センサーが入っていて、それで叩いたときの衝撃や振動を検知してノイズを止めている

こうして、レトロでありながら今風な、便利なようで不便な、そんなデジタルフォトフレームが完成したのであった。

動画にもまとめたので、こちらも合わせてご覧あれ

ここからは、中身がどうなっているのかを順番に解説していきたい。

デジタルなノイズを作る仕組み

バグったようなデジタルノイズは、簡単に作れる。一言でいうと、JPEG画像のバイナリを適当にいじって、壊れた画像をランダムに生成している。なので、バグったようなというより、本当にバグっている。

これが元画像だとすると、


画像の一部を適当にいじることで、こんな風にバグる


いじり方によって、いろんな画像が生成できる


さらにハードにいじると、原形をとどめない壊れ方に……

これらのバグった画像をつなげることで、サイバーな表示を生み出せるのだ。

サイバー!

なかなかの壊れっぷりである。ランダムに生成しているので、自動的に無限の画像を作り出せる。これをエフェクトとして使うことで、チャンネルを切り替えるときのノイズや、調子が悪いときの乱れた映像を作り出しているのだ(しかし目がチカチカする……)。

外装は3Dプリンターと木で作る

テレビの外装部分は木であるが、すべて木ではなく、作りやすいように3Dプリンターの造形物と組み合わせて作っている。

3Dプリンターの造形物に木を貼り付けるというやり方。簡単に水平/垂直が出せるので便利

木を手動で真っ直ぐ切るには、かなりコツがいる。それを補うため、私は「ソーガイドF」というガイド付きのノコギリを愛用している。これを使うと本当に真っ直ぐ切れるのでオススメです。

木の部分を作っているときの様子


切った木はウレタンニスで塗装して


何度か重ね塗りをすることで、艶やかな外装パーツができあがった


フロント部分のパネルも3Dプリント

最近、多色印刷できる3Dプリンター(Bambu Lab P1S)を買ったので、ここぞとばかりに白と黒の2色で印刷してみた。初の多色印刷だったが、上手くいった!

白で出力した箇所は、メタリックシルバーで塗装して質感を出す

これらのパーツを組み合わせると、外装部分は完成である。

テレビの中にラズパイを入れる

テレビの中に入れるパーツたち

デジタルフォトフレームを制御するメインのマイコンは、小型のラズパイである「Raspberry Pi 3 Model A+」を選択。液晶はWaveshare製の5インチ液晶(800×480ドット)で、ラズパイと簡単にドッキングできるようになっている。

ラズパイと液晶はこのようにドッキングする。ケーブルいらずでHDMI接続できるのが良い


あとはダイヤル操作のためのロータリーエンコーダーを2つと、


叩いたことを検知するための加速度センサーを接続している


それを外装パーツにネジで固定。ピッタリ収まった!

電子パーツと3Dプリント品、そして木の融合。この異種混合な組み合わせにグッとくる。特に木の質感がいいよなぁと感じる。

最近の家電は外装に木を使ってくれないけれど、個人的にはもっと木を活用していきたいと改めて思ったのであった。

そこにフロントパネルをはめ込むと、こうなる

今は売られている液晶のほとんどがアスペクト比16:9であり、4:3が主流の昔のテレビよりもだいぶ横幅が大きい。そんな横長のサイズを上手く誤魔化すためにどうするか。パネルで覆って隠してしまえばいいのだ。

というわけで、液晶のかなりの部分を隠すというもったいない使い方をすることで、自然なレトロテレビのサイズ感に収められたのであった。

加速度センサーは天面に貼り付け、電源としてモバイルバッテリーを接続


最後に、ロータリーエンコーダーのつまみ部分に、3Dプリンターで作ったノブを付ける


レトロテレビ風のデジタルフォトフレーム、ここに完成である

上に物を置くと馴染むデジタルフォトフレーム

改めて使ってみる

ノイズがいい雰囲気を出しているし、やはり叩く機能を実装したのが良かった。薄型テレビみたいな形状だと叩きがいがないけれど、この形のテレビだと叩きやすくて、ポンッと太鼓を叩く感じにも近い。

壊れない範囲でポンポン叩いていると、不思議なもので、だんだんと愛着も湧いてくる。適度にポンコツな方が、かえって愛おしく思えたりするものだ。

奥行きがあった昔のテレビの上には、いろんな物が置かれていたのを思い出した

物を置いてみると、得も言われぬ実家感が醸し出された。わりと本気で、このデザインのデジタルフォトフレームはありではないかと思うのであった。

写真の中にカラーバーを混ぜておくと、たまに本物のテレビみたいな画面になって、愉快な気分になれる……かも

fabcrossより転載)

関連情報

ノイズが出れば叩いて直す! レトロテレビ風のデジタルフォトフレーム(掲載元: fabcross)



ライタープロフィール
斎藤 公輔(NEKOPLA)
散歩が趣味の組込みエンジニア。主に「日常生活で目にするもの」をモチーフにしたガジェット作品を制作し、各種メディアやSNSで発表している。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。Twitter


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