革新的蓄電技術がもたらす新しいエネルギーネットワーク社会とは[CONNEXX SYSTEMSに聞く、次世代電池の現状と今後の展望]

画像出典:CONNEXX SYSTEMS株式会社コーポレートサイト | 会社情報 > 私たちの理念

現在、太陽光や風力といったサステナブルな再生可能エネルギーによる発電方式へのシフトが世界中で進んでいます。同時に、電力インフラを最適化し、レジリエンスを向上させるという点でも、太陽光発電と蓄電池による、分散型電源システムが注目されています。

今回の連載は全3回の構成で、革新的蓄電技術による次世代エネルギーシステムの開発を目指す、CONNEXX SYSTEMS株式会社創業者/代表取締役CEO 塚本 壽氏にお話を伺いました。

第1回ではリチウムイオン二次電池(LIB)と鉛電池を組み合わせたBIND Battery®を中心に、第2回では、同社がLIBを超える次世代電池として開発を進めるSHUTTLE BatteryTMを取り上げました。最終回は、蓄電池がもたらす新しいエネルギーネットワーク社会についてご紹介するとともに、次世代電池開発に携わるエンジニアに求められるキャリア形成についてもお話を伺います。(執筆:後藤銀河 撮影:編集部)

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<プロフィール>
CONNEXX SYSTEMS株式会社
創業者/代表取締役CEO 塚本 壽氏

京都大学工学部化学工学科卒業後、日本電池株式会社(現GSユアサ)入社。(The University of Aberdeen 理学博士号取得)1998年に Quallion LLC(LA, USA)を設立し、CEO/CTO就任 。医療、衛星、軍事用など、高信頼性リチウムイオン電池を開発・製造し、国際電池・材料学会技術賞、フロスト・サリバン賞、Boeing社Technology Supplier Awardを受賞するなど、特殊用途リチウムイオン電池分野において卓抜した業績を残した。2011年CONNEXX SYSTEMS株式会社設立、代表取締役就任。

――これまでLIBのリユースを革新するBIND Battery®と、革新的電池であるSHUTTLE BatteryTMをご紹介いただきました。御社のもう一つの取り組みとして掲げられている、「HYPER BatteryTM(ハイパーバッテリー)」についてご紹介いただけますか?

[塚本氏]HYPER BatteryTMは、圧倒的なパワー性能を有する薄型板状リチウムイオン電池です。例えばEVなどに搭載されている大容量のLIBでは、急速充放電の繰り返しによる性能劣化や、充電に時間がかかることなども課題として挙げられています。電気エネルギーを効率的かつ最大限に活用するためには、高いエネルギー密度だけではなく、入出力密度についても優れた蓄電デバイスが必要になります。

HYPER BatteryTMは、入出力密度を高めたLIBであり、従来型のLIBでは不可能な急速充放電や大電力回生を可能にするものです。

[塚本氏]HYPER BatteryTMはLIBとしての高いエネルギー密度に加え、3,500W/kgまで入出力密度を高めることで、従来のLIBを超える急速充放電性能と大電力回生を実現しています。

また、8C(注:電池容量を1時間で充放電させる電流が1Cであり8Cはその8倍)というハイレートな充放電を5万サイクル繰り返した後でも、初期容量の80%以上を保てます。主な用途として、短時間での充放電や電力回生を繰り返すHEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド自動車)や、短時間で充電して利用する必要があるAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)などの物流支援ロボット向けを考えています。

実際に、HYPER BatteryTMを搭載することで、90秒の充電で、30分間 1tの荷物を搬送し続けることができるようなAGVも実現しています。さらに、このパワー性能に特化したHYPER BatteryTMをBIND Battery®技術で異種電池、異種電源と組み合わせ、パワーとエネルギーの最適バランス設計を行うなどすれば、ソリューションの幅が大きく広がることも期待されます。

再生可能エネルギーによる発電設備と蓄電池によるレジリエントな社会を目指す

――御社が開発を進める蓄電池によって、どのような社会が実現できるとお考えですか?

[塚本氏]弊社の企業理念でもありますが、蓄電とは、今日のエネルギーを未来のエネルギーにつなぐ「絆」だと考えています。社会に分散するさまざま蓄電池を統一的なネットワーク・アーキテクチャで結ぶことで、一つの大きなエネルギー・ソースとして利用すること。私たちはこれを未来のエネルギーシステム「Power NetTM(パワーネット)」と呼んでいますが、電気エネルギーの効率的な利用を促し、電気エネルギーの供給を安定化するだけでなく、災害時にも揺るがないレジリエントな社会の礎になると考えています。

再生可能エネルギーによる発電設備と蓄電池を結ぶ新しいエネルギーネットワーク「PowerNET™」 画像出典:CONNEXX SYSTEMS株式会社コーポレートサイト | 会社情報 > 私たちの理念

[塚本氏]既存のグリッドに加えて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー設備を分散設置し、さまざまなタイプの蓄電池をHUB、バッファとしてマイクログリッドをネットワークすることで、どんな地域でもエネルギーの自給自足が可能になり、カーボンニュートラルやネットゼロの実現に大きく近づくことができます。

私たちは、蓄電池製品の開発を通じて、電気エネルギーの効果的な利用を促進し、環境調和型の社会インフラの実現による新しいエネルギー社会を目指しています。

――次世代蓄電池の開発に携わるエンジニアには、どのような技術、知識が求められていますか?

[塚本氏]弊社の従業員は35人ほどで、約半数がエンジニアです。収益事業として取り組んでいるLIBを用いた産業用蓄電システムの開発、展開という意味でも、将来のSHUTTLE BatteryTMの実用化に向けても、電気系や電子制御が分かるソフトウェア技術者は今後増やしていきたいと考えています。特に、今後Power NetTMを構築することを考えると、コラボレーションする相手の技術をある程度理解できる必要がありますし、システムインテグレーションする力のあるエンジニアが求められるでしょう。

また、特にSHUTTLE BatteryTMのような全く新しい蓄電技術の開発にあたっては、化学系はもちろんですが、材料科学や熱工学をはじめとする、さまざまなバックグラウンドを持った博士号取得者(Ph.D.)、尖った知識と能力、柔軟な発想力を持った人材が欲しいですね。

その他に必要となるのは、蓄電システムが用いられるエネルギーシステム全体のシステムインテグレーションに造詣の深い営業職、セールスエンジニアでしょうか。弊社はメーカーですが、産業用蓄電システムの販売に当たっては、お客様の用途や設置環境、グリッドや他のシステムとの連系等の状況などを踏まえて、提案、サポートができなくてはなりませんので、技術の解る営業職、営業の解るエンジニアは大変貴重です。

創業者/代表取締役CEOの塚本 壽氏。

――御社は技術の先端を切り開くスタートアップということで、やはり一般企業よりは尖った技術、知識を持つエンジニアが向いているとお考えですか?

[塚本氏]重要なのは、ご自身の技術が本当に弊社で生かせると感じていただけるかどうかですね。ただ、夢があるかどうかは、エンジニアとして生きる糧になる本当に大切なことだと考えています。今あるLIBより、少しだけ良い電池をつくるというよりも、何か世界に大きく貢献できる新しいことをやろうという、そんな志を持っている人に来てもらえたら嬉しいですね。

エンジニアとして「自分の目で見る」ことを大切に

――ありがとうございます。では最後に、エンジニアとして大切にされていること、後進のエンジニアに向けたアドバイスなどをいただけますか?

[塚本氏]私が大切にしていることは、一つだけです。それは自分の目で見るということです。例えば、何か実験して失敗したとしたら、すぐにバラして破片を一個ずつ細かく見てみる。成功しても、それを見る。とにかくあれこれ考える前に、ものをじっと見るということです。たくさん本を読むとか、そういうことももちろん大事ですが、まずは見て触ることを大切にしています。

――それは何が起こっているのかをきっちり自分で把握するということでしょうか?

[塚本氏]もちろん、もう壊れたものを見ても、何が起こったのかは分かりません。ただ、見ることによって、頭の中で何がどうなって何が起こったのか、いろいろなストーリーを組み立てるわけです。その条件を変えながら繰り返し考えることで、前に進むためのヒントが見えてくると思います。やったことの記憶は無くなってしまいますが、自分が考えたストーリーは残ります。これがどこかで結び合って、新たな発想につながっていくと私は考えています。

取材協力

CONNEXX SYSTEMS株式会社



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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