LIBの数倍のエネルギー密度を実現する、超高エネルギー密度型革新電池「SHUTTLE Battery™」とは[CONNEXX SYSTEMSに聞く、次世代電池の現状と今後の展望]

画像出典:CONNEXX SYSTEMS株式会社コーポレートサイト | 研究開発 | SHUTTLE BatteryTM

充放電のできる二次電池として、ニッケル系や鉛系の充電池が長い間利用されてきました。1990年代に登場したリチウムイオン二次電池(LIB)は、エネルギー密度が高く、繰り返し充放電にも強く、小型化も可能という特徴から一気に普及しています。しかし、今後脱化石燃料を進めるためには、化石燃料の持つエネルギー密度に近い、LIBを遥かに超えるエネルギー密度を実現する「革新的二次電池(蓄電池)」が必要とされ、世界中で開発が進められています。

今回の連載は全3回の構成とし、革新的蓄電池技術を取り上げます。第1回は鉛電池とLIBを組み合わせたBIND Battery®を中心に、CONNEXX SYSTEMS株式会社創業者/代表取締役CEO 塚本 壽氏にお話を伺いました。第2回では、同社がLIBを超える次世代電池として開発を進める「SHUTTLE BatteryTM(シャトルバッテリー)」について、ご紹介します。(執筆:後藤銀河 撮影:編集部)

第1回の記事はこちら

<プロフィール>
CONNEXX SYSTEMS株式会社
創業者/代表取締役CEO 塚本 壽氏

京都大学工学部化学工学科卒業後、日本電池株式会社(現GSユアサ)入社。(The University of Aberdeen 理学博士号取得)1998年に Quallion LLC(LA, USA)を設立し、CEO/CTO就任 。医療、衛星、軍事用など、高信頼性リチウムイオン電池を開発・製造し、国際電池・材料学会技術賞、フロスト・サリバン賞、Boeing社Technology Supplier Awardを受賞するなど、特殊用途リチウムイオン電池分野において卓抜した業績を残した。2011年CONNEXX SYSTEMS株式会社設立、代表取締役就任。

――LIBを超える超高エネルギー密度型革新電池ということですが、LIBの長所短所と、SHUTTLE Battery™の概要について教えていただけますか?

[塚本氏]モバイルデバイスやEVなどに搭載されている蓄電池は、LIBが主流となっています。蓄電池は、酸化還元反応という化学反応を使って、電気エネルギーを化学エネルギーの形で貯蔵し、貯蔵したエネルギーを再び電気エネルギーとして取り出すことができる、エネルギー変換デバイスの一種です。この酸化還元反応を担う物質を活物質と呼びますが、リチウムは原子の周期律表を見ても一番軽い金属で、活物質としてはリチウム以上のものはないと思います。そうした点でリチウムは当面の主力になると考えられますが、現状のリチウムイオン電池は、有機溶剤系の電解液を使用しているため、液漏れやセパレーターの短絡による発火など、異常発生時の安全性に懸念があります。また、低温では内部抵抗が高くなり、電池として使えないという課題もあります。そうした課題解決のため、固体電解質を使用する全固体電池の開発が世界中で進められています。

創業者/代表取締役CEOの塚本 壽氏

これまでの常識を超える蓄電技術のイノベーションに挑戦する

[塚本氏]また、LIBに使われているリチウムやコバルトなどのレアメタルは、産出地が偏在しているという点で地政学的なリスクがあるのも課題です。そのような中で、蓄電池の性能の一つの指標であるエネルギー密度の更なる向上が求められています。そこで、レアメタルに依存することなく、従来の電池を大幅に超える超高エネルギー密度を実現することができる、革新電池SHUTTLE BatteryTMの研究開発を進めているのです。

SHUTTLE BatteryTMは、正(プラス)極に空気中の酸素、負(マイナス)極に鉄を使う、金属空気電池と呼ばれるものの一種と言えます。酸素は電池の外からいくらでも取り入れられますし、リチウムイオン電池に使われている遷移金属酸化物に比べて、圧倒的に軽くすることができます。また、電池の中身の大半を負極材料の鉄にできますから、電池容量も多くできます。それに、地球重量の約30%を占めている鉄は、世界中どこでも誰でも容易に手に入れることができる、というメリットがあります。

[塚本氏]SHUTTLE BatteryTMの主要活物質は空気と鉄ですが、いわゆる一般的な鉄空気電池とは異なるユニークな蓄発電デバイスです。まず、水の電気分解の原理を使って、水素と空気中の酸素を反応させて電気を得る、固体酸化物型燃料電池(SOFC)がSHUTTLE BatteryTMのケースの一部になっています。燃料電池の正極活物質は酸素で負極活物質は水素になりますが、水素極はケースの内側を向いており、ケースの中に鉄粉が格納されています。

容器内の微量の水素がSOFCを通して空気中の酸素と反応し、放電しますが、その際に生成される水が加熱水蒸気の状態で容器に還流、鉄に作用して酸化させ、その際に再び水素が発生します。逆に、電池を充電すると水素が発生しますが、この水素は酸化鉄を還元して、純鉄にします。化学反応として水素やエネルギーの収支は釣り合いが取れるので、全体としてみると、鉄の酸化還元反応で充放電していることになります。

つまり、ケースの中の純鉄が水蒸気と反応して全て酸化鉄になるまで放電し、再び充電することで酸化鉄は純鉄へと戻っていく、これを閉じた系の中で可逆的に繰り返している、高温作動型の全固体蓄電池なのです。システムを大型化することで、現行リチウムイオン電池の5倍以上という、高いエネルギー密度の実現も可能な革新的な蓄電池です。水蒸気による酸化と水素による還元を箱の中で繰り返しているだけなので、仕組みとしては簡単でしょう。

――充電することで酸化鉄が水素によって純鉄に還元され、放電時には水蒸気と反応して再び酸化鉄に戻っていくということですね。燃料電池も鉄の酸化還元も、確かによく知られた化学反応ですが、この二つの反応を組み合わせて充電池にする、という発想が独創的ですね。ところで、水素による還元は吸熱反応だと思いますが、熱の供給はどのように行われるのでしょうか?

[塚本氏]外部から熱を加えるのではなく、放電時に出る熱をそのまま利用します。電池全体を断熱材などで覆うことで、水素生成反応に必要な400℃以上の高温に保持しようと考えています。生じた熱は鉄の形で残っているわけですから、ある程度大型の電池にすることで、反応物質も反応熱も閉じられた系の中で循環できると考えています。

鉄の酸化還元については、充放電を続けると鉄粉の表面が焼結することにより、徐々に反応速度が低下するという課題がありますが、これについては鉄粉に特殊な表面処理を施し、鉄粉の焼結を防ぐことでサイクル特性を向上させることに成功しています。

­­――日本の製造業が排出する二酸化炭素(CO2)の約4割が製鉄由来だという指摘もあり、鉄鋼業界では近年、水素を使ったカーボンフリーの製鉄プロセスの研究が進んでいます。SHUTTLE BatteryTMは、それを電池という箱の中で実現することでもあると感じました。

[塚本氏]そうですね。実は、一般社団法人日本鉄鋼協会が発行している「ふぇらむ」という会報誌がありますが、2023年7月号にSHUTTLE BatteryTMについて寄稿しました。それを読んだ鉄鋼業界の方が、SHUTTLE BatteryTMを使って鉄を還元できないか、と言ってこないかなと期待しているんです(笑)。

SHUTTLE BatteryTMは殆ど不燃性の固体でできていますから、極めて安全です。断熱層の厚みは電池のサイズによらず一定なので、小さいものよりも、大きいものの方がエネルギー密度的に優位になります。SHUTTLE BatteryTMは、発電デバイスである燃料電池のように水素の継続供給が不要ですから、水素をつくるための改質器も、貯蔵のためのタンクや供給のためのパイプラインも不要なので、インフラ投資も大幅に低く抑えることができます。ですから、ビルのように大規模な蓄電施設をつくって、次世代エネルギーシステムの安定化に貢献したいと思っています。

SHUTTLE BatteryTMはリチウムイオンの5倍以上のエネルギー密度が実現可能なうえ、安価で安全な空気と鉄を使うことで、コストは極めて小さくすみますし、資源の偏在に制約を受けることなく、世界中どこでも誰でも、この技術の恩恵を享受できるという意味でも、今まで誰もなし得ていない、画期的な次世代電池と言えるでしょう。材料コストは従来の10分の1以下を想定しており、長期エネルギー貯蔵施設等として展開できるよう、2026年頃には製品化に向けて目途をつけたいと考えております。

SHUTTLE BatteryTMに係るビジネスモデルは、さまざまなパターンを想定していますが、パートナー企業との協業やライセンス供与も含めて柔軟に展開し、できるだけ早く技術を普及させ、誰もがこの技術の恩恵を享受できるようにしたいと思っています。

次回は、「蓄電池がもたらす新しいエネルギーネットワーク社会」と題してお話を伺います。

取材協力

CONNEXX SYSTEMS株式会社



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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