MIT、輻射熱のない可視光だけで水が蒸発する現象を確認――光分子効果

Image: Courtesy of the researchers

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、赤外線のような輻射熱効果を持たない可視光線でも、特定の条件下で水の蒸発をもたらすことを実験的に確認し、フォトンが水の表面から水分子クラスターを解放する、「光分子効果」によるものであることを提案した。スポンジ状のハイドロゲルに浸された水に、波長を正確に制御された可視光線を照射することによって、エネルギー保存則などで計算される理論的最大蒸発速度を超える蒸発を確認したものだ。研究成果が、2023年10月30日に米国科学アカデミー紀要『PNAS』誌に論文公開されている。

水の蒸発は、体を冷やす発汗や、露が朝の日光で霧状に立ち込める現象など、日常的に観察される。その蒸発量は、体温や日光による輻射熱などをベースとしてエネルギー保存則などに従い計算できると考えられている。だが近年、ハイドロゲルというスポンジ状の材料に保持されている水が、受け取る熱エネルギーで説明されるよりも多く蒸発することが発見され、それは理論的な最大蒸発速度の2倍以上になるという報告もある。一方で純粋な水は水面下何mでも透明であるなど、水自体はほとんど可視光線を吸収しないため、こうした報告に対して懐疑的な見方が多かった。

MIT機械工学科の研究チームは、新しい実験やシミュレーションを通してこの現象を再検証することにチャレンジし、特定の条件下では光が熱を必要とすることなく直接的に水を蒸発させ、加熱だけの場合より効率的に蒸発させることを確認した。薄いメンブレンのスポンジ状格子から構成されるハイドロゲルに水を浸し、正確に制御された波長を有するシミュレート可視光線に対する反応を観察するため、水を多量に含むハイドロゲルのコンテナを秤上に置き、蒸発によって失われる質量を直接測定した。その結果、輻射熱効果を持たない可視光線でも、特定の条件下で水を蒸発させることを確認した。一方、同じ実験設定で可視光ではなく電気で材料を加熱して蒸発速度を測定したところ、蒸発は決して理論的な最大蒸発速度を超えることはなかったが、これに加えて可視光線を照射すると蒸発量は理論的限界値を明確に超えることも示した。更に、そのような効果は光の色、即ち波長によって変化し、緑色の特定の波長520nmにおいて最大となることを明らかにした。研究チームは、これを「光分子効果」と呼び、光分子効果は光そのものによって起こり、フォトンが水の表面から水分子クラスターを解放することで生じるという仮説を提案している。

現在、研究チームは、光分子効果を活用して太陽エネルギー利用の淡水化システムの効率を向上し、淡水化のコスト化の低減する可能性について検討している。また、光分子効果は、霧や雲の生成や発達において重要な役割を果たしている可能性があり、気候変動モデルに導入することにより地球温暖化の予測の高精度化も期待できると説明している。

関連情報

In a surprising finding, light can make water evaporate without heat | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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