北海道大学とイムラ・ジャパン、東京大学の研究グループは2017年10月4日、酸化チタンの薄膜と金ナノ微粒子、金薄膜を組み合わせた光センサーを開発、照射する可視光の波長によって光電流の向きを反転させることに成功したと発表した。インフルエンザの診断など医療用簡易検査の高感度化への応用が期待できる技術だ。
サイズが数nm~数10nmの金属ナノ微粒子(金、銀、アルミニウムなど)に光を照射すると、微粒子表面の自由電子が集団運動を起こし、微粒子のサイズや形状に応じて特定の色の光を放つ。局在表面プラズモン共鳴と呼ばれるこの現象は、金属ナノ微粒子の極めて近くの微小な空間に光を束縛して増幅する機能を持つ。このため、近年ではインフルエンザや妊娠の簡易検査キットなどに利用されてきた。
今回の研究では、酸化チタンの薄膜層の上側に金ナノ微粒子を、下側に金薄膜を配置し、照射する光の波長によって上側の金ナノ微粒子や下側の金薄膜から酸化チタンへ電子を移動させることで、光電流や光起電力の方向を反転させられると想定。金ナノ微粒子/酸化チタン/金薄膜電極を作用極、白金を対極として電解質水溶液に接触させ、様々な波長の可視光を作用極に照射して水の酸化還元反応に基づく光電流や光起電力を観測し、それらが照射波長により反転することを検証した。
金ナノ微粒子を酸化チタン薄膜上方の内側に配置するとプラズモン共鳴波長が650nmに現れ、それより長い波長の光を照射すると金ナノ微粒子のプラズモンが励起されて熱電子が酸化チタン薄膜を通り金薄膜へ流れ込む。一方それより短い波長では、金薄膜自身の光吸収と金ナノ微粒子の強い光散乱によって金薄膜上に伝搬型表面プラズモンが誘起され、金薄膜から酸化チタン側に電子が流れる。これらによる電流の流れを、ランプの点灯で視認できる回路を作り、光電流の向きが変わることを確認した。
プラズモンを励起することで金ナノ微粒子から酸化チタンへ電子が流れることは以前から知られていたが、今回の研究は、金ナノ微粒子/酸化チタン/金薄膜の構造を持つ電極を用いることで金薄膜上に伝播型表面プラズモン共鳴励起が生じ、金薄膜から酸化チタンへ電子が流れることを初めて明らかにした。また、金ナノ微粒子のサイズや加える電圧によって光電流の向きが反転する波長を制御できることも解明した。
今回の研究で明らかになった新原理を用いれば、医療用簡易検査キットにおいて微妙な色の変化を目で見て判断するような従来の方法ではなく、非常に小さなプラズモン共鳴波長の変化でも光電流や光起電力の反転という大きな信号の変化として検出する方法の開発が可能となる。インフルエンザや妊娠の簡易検査でのより高感度で高速な医療検査キットや、高感度な光センサーの小型化への応用が期待される。