網膜を模倣するバイオチップの開発――人工シナプスとしても機能する可能性

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目の網膜を模倣した、インテリジェントバイオチップが開発された。この研究成果は、独ユーリッヒ研究センターをはじめとする、複数の研究機関の国際チームによるもので、2023年11月2日付の『Nature Communications』誌に掲載された。

SFのみならず、我々の現実世界も、人体にチップなどの人工的な機能を融合させる「サイボーグ化」に向けて踏み出している。例えば、不整脈を補正するペースメーカーや、聴力を補完する人工内耳、視力の弱った人が光を取り戻すための網膜インプラントなどがある。

開発された有機半導体のチップは、網膜のインプラントを加速する可能性がある。人間の視覚システムは、多数の「光受容体」が受けた光の量から、脳が像を作り出す。このチップは、降り注いだ光を定量化して認識し、視覚情報を扱う「視覚路」の模倣に利用できる。

もともと、人体の細胞は、特定のプロセスを制御したり情報を交換したりするために、「イオンの移動」を利用している。このチップは、導電性ポリマーと感光性分子から構成され、毒性のない有機部品のみを使用し、柔軟で、イオンで動作する点が特徴だ。

さらに、このチップは、シリコンを素材とする従来の半導体と比べて、生体との親和性が高い。この材料は、合成後に特性が評価され、網膜がもつ典型的な性質を模倣できることが示された。ただし、今のところは「概念実証」の域を出ないという。

一方で研究チームは、このチップに「人工シナプス」という、別の応用先の可能性も見出している。

シナプスは、神経細胞間で電気信号を伝達する接続点という機能で、脳の学習能力や記憶能力を形成する。研究チームは、今回開発したチップについて、光の照射量によってポリマーの導電性が変化する特性を確認した。この特性から、この技術は将来、人工シナプスとして応用できる可能性がある。

研究チームの期待は、本研究を含めた「生体電子工学」の技術を使って、様々な治療に貢献することだ。例えば、パーキンソン病やアルツハイマー病など、神経変性疾患で起こる情報の処理や伝達機能の不具合を修正したり、機能不全に陥った臓器を補助したりできるバイオチップが考案されるかもしれない。

このような部品としてのバイオチップは、義肢や人工関節とのインターフェースとしても機能する可能性がある。研究チームは、人工網膜に加えて、人体、特に神経系の細胞と同様の方法で、相互作用できる生体電子工学チップ向けの他の手法の開発にも取り組んでいる。

関連情報

Development of a Retina-Like Biochip
Azobenzene-based optoelectronic transistors for neurohybrid building blocks | Nature Communications

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