理化学研究所は2022年5月23日、オジギソウが外界の刺激を感知して運動する機能を利用して、枝に軽く触れるだけで開閉可能な小型のバルブを開発したと発表した。小型医療診断デバイスや生化学実験ツールに加えて、小型で電源不要な暑熱乾燥時の放水デバイスなどへの応用が期待される。
細胞や生体組織の機能を用いるデバイスは、外部からの電力供給に依存しないほか、材料自体も全て自然に還元される点が特長だ。一方で、複雑な動物組織や切片を生かしたまま使うのは技術的に困難なほか、倫理的問題も生じる。
そこで同研究所の研究チームは今回、光や水、空気を供給すれば個体から切り離してもエネルギーの発生や機能維持が可能で、倫理的問題も少ない植物の利用を着想した。
中でもオジギソウは入手や増産が容易で、さまざまな刺激に応答する神経のような情報伝達機能や運動機能を有する。一度動くと回復までに数分程度を要するが、ゆっくりした動きで水の流れを制御するバルブには使用できる可能性があると考え、今回の開発に着手した。
今回の研究では、金属のおもりをマイクロ流体チップチャンバーの上に設置し、滑車を通してワイヤでオジギソウの枝に繋ぎ、動きを伝える構造を採用した。
土台となるマイクロ流体チップ上に幅および深さ0.2mmの流路と直径8mmのチャンバーを作製し、その上に厚さ0.1mmの膜を形成し、おもりの動きの方向を調整する治具およびプッシュバーを設置した。チップの構成要素は全てシリコーンゴムとしている。
オジギソウの枝を刺激する前は、おもりによりチャンバーの入口が閉じており、外部からマイクロ流路への水流を遮断する。オジギソウの枝を刺激すると、枝が下がっておもりが持ち上がることで、流路が開く仕組みとなっている。
バルブの機能を実証すべく、まずはオジギソウの動きによる力の大きさを測定した。オジギソウの枝に糸をくくり付け、上部に設置した力センサーと接続し、枝を刺激した際に枝が下がる際の力の大きさを計測している。
鉢植えのオジギソウの枝と、枝をオジギソウから切り離して水を入れたチューブに挿したもの、切り離した枝を2本合わせたものの3種を用いた。いずれも刺激を加えた後に力が生じ、約10分後にほぼ元の状態に戻った。
鉢植え状態のものが15mNと最も力が大きく、切り離した状態では約9mNに下がったものの、2本合わせれば約16mNとなった。また、この枝を切り離してチューブに入れた状態で2週間保持し、同様に力を測定したところ、依然刺激への反応が見られた。力は減衰したものの、約7mNとなっており、生育条件を満たせばアクチュエータとして長期間使えることが判明した。
この結果を踏まえて、まずは鉢植え状態のオジギソウを用いてバルブ開閉の動作検証実験を実施した。おもりで流路がふさがった状態でオジギソウの枝をピンセットで刺激したところ、1.4秒後におもりが持ち上がってチャンバー上のプッシュバーが浮き上がり、水が流れ始めた。
バルブが開いた状態は約8分間持続した。また、休止時間20分のサイクルで、3回以上繰り返して使用可能なことも判明した。0.1kPaごとに送液圧力を上げたところ、1.5gのおもりによって4.2kPaまで液が止まっていたことから、耐圧は4.2kPaと測定された。
次に、切り離してから2時間以内の枝を2本用いて実験を行った。鉢植えの場合と同じく枝をピンセットで刺激することで水が流れ始めたものの、バルブが開いた状態の持続時間は約2分間に留まった。2本の枝の動きが必ずしも一致していないことが原因とみられる。
一方で、休止時間20分のサイクルで3回以上繰り返して用いられることや、耐圧性能が4.2kPaであることは同様に確認できた。
同研究チームは、今回のシステムはサイズがかなり大きく、今後は耐久性や集積度を高める必要があるとした。さらなる研究開発を行うことで、究極のクリーンデバイスともいえる植物を用いた機械モデルが実現することが期待される。