ナノ秒時間領域での計測時間スケールのギャップを埋める撮影法を開発 東京大

東京大学大学院工学系研究科の佐久間一郎教授らの研究チームは2023年12月21日、従来の高速度撮影技術が抱えていたナノ秒時間領域での計測時間スケールのギャップを埋める撮影法を発表した。フェムト秒という時間幅を持つ超短パルスから色の異なるナノ秒間隔の光パルス列を生成する光学システムにより、ぶれなくナノ秒の時間領域で生じる現象を撮影する。

動的な現象を観察する高速度撮影では現在、電気的な高速度ビデオカメラが幅広い分野で活躍しており、ミリ秒やマイクロ秒といった時間スケールの観察で強い威力を発揮している。光学的な超高速撮影法は近年研究開発が盛んで、ピコ秒やフェムト秒の時間分解能を実現している。

しかし、電気的な撮影法と光学的な撮影法のちょうど間に存在するナノ秒の時間領域は、どちらの方法でも撮影が難しい時間スケールで、高速度撮影に重要な要素を犠牲にせざるを得ない状況だった。

研究では、このナノ秒撮影問題を解決するため、超短パルスからナノ秒間隔の光パルス列を生成する新しい光学システム「Spectrum Circuit」を開発。超高速撮影法STAMPへ適用し、ナノ秒の時間領域まで光学的な撮影法を拡張した。

Spectrum Circuitは、超短パルスが、精密に調整された4枚のミラーで構成される「光のサーキット」を周回し、光パルスが1周ごとに部分的に取り出される。従来のナノ秒パルス伸長法である光ファイバを用いた方法で発生するような望ましくない非線形光学効果を避けられることに加え、周回長の変更によって、自在に光パルス列の間隔(高速度撮影のフレーム間隔)を調整できる。

ナノ秒撮影法を実証するため、開発した手法を用い、音波と同様に圧力変動を伴う非線形な波である衝撃波が、がん細胞を伝播する様子を超高速撮影したところ、世界で初めて細胞を伝播する衝撃波ダイナミクスの直接的な観察に成功した。この結果は、細胞外よりも細胞中を伝播する衝撃波の速度が速いことを実験的に示している。

がん細胞を伝播する衝撃波のナノ秒シングルショット撮影結果
上段と下段のフレームは、それぞれ細胞がない場合とある場合の衝撃波伝播の様子を撮影した結果

さらに開発した手法を応用し、ピコ秒、ナノ秒、ミリ秒という複数の時間スケールで、ガラスの超短パルスレーザー加工現象の複数のダイナミクスを撮影するシステムを構築。全ての加工パルスで網羅的に、超短パルスレーザー加工中に生じるプラズマと衝撃波のダイナミクスや加工穴形状の変化を計測することができた。

複数の時間スケールにおける超短パルスレーザー加工現象のシングルショット撮影結果
横方向と縦方向のフレームは、それぞれSTAMP(上段:2.0ns間隔、9フレーム、下段:平均25ps間隔、5フレーム)と高速度カメラ(1ms間隔、200フレーム以上で撮影)のフレームを表しており、プラズマ(ピコ秒)、衝撃波(ナノ秒)、加工毎の穴形状(ミリ秒)などのダイナミクスを可視化している。各フレームの上は空気、下はガラスであり、加工パルスは上から下に向けて時間0で照射されている。プラズマは光を吸収するため黒く写り、衝撃波は媒質の屈折率を変化させるため波面が観察されている。1ms内の51psのフレームにある白い矢印は、1発目の加工パルスで形成された加工穴が2発目の加工パルスを空気中で集光して生じた空気の絶縁破壊を示しており、加速された空気中の衝撃波の形状が観察されている。

開発した技術は、旧来の高速度撮影の役割である未知の高速度現象の学理解明や動的プロセスの解析、評価に加え、高速で機械学習用データベースを構築する強力なツールとして貢献する。音響医療やレーザー加工に加え、バイオ、医療、ものづくり、材料、環境、エネルギーなどの分野での貢献が期待される。

関連情報

高速度撮影の時間スケールをつなぐ光学技術を開発 ―電気的撮影法と光学的撮影法の谷間であるナノ秒撮影問題を解決―

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