光をエネルギーに変換して利用できる新しい酵母菌株を開発――ロドプシン遺伝子を単細胞酵母に移植

光からのエネルギーを利用できる酵母菌株が世界で初めて作り出された。この研究は米ジョージア工科大学によるもので、その詳細は2024年1月12日付で『Current Biology』に掲載された。

酵母は、暗所で発酵させると炭水化物をパンやビールのような製品に変化させる微生物として知られているが、光にさらされるとそのプロセスが妨げられ台無しになることさえある。

研究チームは、過去に単細胞生物から多細胞生物への進化を研究しており、単細胞のモデル生物を3000世代にわたって実験室で観察した。その過程で、酸素は組織の奥深くまで拡散するのが難しいので、エネルギーを得る能力がない組織ができてしまうことに気が付き、酸素を使わずに生物にエネルギーを与える方法を探すようになった。

その方法の1つは光だが、光を利用可能なエネルギーに変える能力は、進化の観点からは複雑になり得る。例えば、植物が光を取り込んでエネルギーとして利用できるようにする分子機構に関係する遺伝子やタンパク質の多くは、合成することも他の生物へ移植することも難しい。

植物の葉緑体に含まれる葉緑素(クロロフィル)に基づいた光合成は光を利用したエネルギー獲得方法として最も身近なものだが、微生物ロドプシンもクロロフィルとほぼ同量の光エネルギーを変換する。ロドプシンはより単純な構造で光をエネルギーに変換するタンパク質で、多くの分類群に存在する。

原核生物に起源を持つロドプシンは、生物が進化過程で互いに遺伝子を取得し合うことで広まったと考えられる。近縁でない生物間で遺伝情報を共有するような遺伝子交換は「遺伝子水平伝播」と呼ばれ、短期間で大きな進化を引き起こす可能性がある。遺伝子水平伝播はあらゆる種類の遺伝情報で起こり得るが、特にロドプシンタンパク質でよく見られる。しかし、複雑な内部膜構造を持つ真核細胞がロドプシン遺伝子を水平獲得する方法や条件は、ほとんど知られていない。

研究チームは、多細胞酵母にロドプシンを組み込む方法を考える過程で、これまでロドプシンが存在したことがない単細胞酵母にロドプシンを移植することを試みた。細胞の液胞に挿入されるロドプシンをコード化したロドプシン遺伝子を寄生菌から合成し、一般的な出芽酵母に加えた。液胞はロドプシンのようなタンパク質が作る化学勾配をエネルギーに変えることができる。こうして液胞ロドプシンを備えた酵母に光を当てると、およそ2%速く成長した。

酵母を光合成生物に変えることがあまりにも容易だったので、研究者は衝撃を受けたという。遺伝子を1つ移動させただけで、酵母は光が当たると暗所より急速に増殖するようになった。この単純さは、進化について重要な洞察を提供するものであり、なぜロドプシンがこれほど多くの系統に容易に広まることができたのかを表し、そしてそれがなぜなのか、を説明できるのだ。

液胞機能が細胞の老化に関与している可能性があるため、研究チームは酵母の老化作用をロドプシンがどのように抑制できるかを調べる共同研究も開始した。バイオプロダクション(バイオものづくり)研究のために、今回の酵母同様に太陽光をエネルギーに変換する新しい酵母をすでに使い始めている研究者らもいるが、研究チームは、単細胞酵母が多細胞生物になるまでの道のりに、この付加された利点がどのような影響を与えるかを探求することに特に意欲を示しているという。

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