電気刺激で骨の再生を促進――骨折の治癒期間を短縮する「圧電絆創膏」

(a)骨再生メカニズム(b) 製造プロセス

韓国科学技術院(KAIST)材料科学工学科の研究チームが、全南大学校の研究チームと共同で、ハイドロキシアパタイト(HAp)の圧電性に基づく骨形成能力を利用し、生体内にインプラントして骨折の治癒期間を短縮できるフレキシブルで自立型の生体模倣スキャフォールドを製造する手法を開発した。実際に、in-vitroおよびラットにおけるin-vivoの試験において、骨再生を促進し骨折の治癒期間を短縮する可能性が実証された。研究成果が、2024年1月4日に『ACS Applied Materials & Interfaces』誌に論文公開されている。

骨折した骨の再生は複雑なプロセスであり、インプラントおよび増殖因子の遺伝子制御などを含めて再生を促進する既存の手法は、コストや治癒期間などの観点で限界に直面している。特に、骨粗鬆症などにより骨折し易い高齢者の場合、治療期間も長く運動機能の低下が認知症の発症要因にもなることから、日本を初めとする長寿国における社会問題ともなっている。一方で、骨材料が圧電特性を有することが古くから知られ、骨に応力が加わるとその圧電特性により電位差が発生し、その電位差から発生する電流による刺激が、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞などの周囲のミクロな環境を変えるように作用し、骨形成や骨再生が促進されることが判ってきた。近年、この特性を利用した圧電材料などにより骨に電気的刺激を与え、骨再生能力を高めて骨折治癒期間を短縮しようとする試みが成されている。

KAISTの研究チームは、骨や歯に基本的に存在するリン酸カルシウム材料であり、圧電性能を有するHApに着眼した。鉛を含まず生体適合性の高いHApは、虫歯予防効果がよく知られており、歯磨き粉にも含まれている。研究チームは、生体内の骨折部位にHApをインプラントする際に、同様に圧電性を有するフッ化ビニリデン(VDF)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の共重合体高分子フィルムにスキャフォールドとして導入するとともに、骨組織形成に対して表面性状が重要であると考えて表面分極性を高めたフレキシブルで自立型の生体模倣「圧電絆創膏」を作成した。in-vitro試験およびラットにおけるin-vivo試験の結果、骨再生を促進する優れた可能性が実証された。in-vitro試験では、HApがない場合に比べてHApがある場合には、高い細胞付着性および細胞増殖性を示した。また、ラットの頭蓋骨損傷部に適用したin-vivo試験では、比較条件よりも著しく高い骨再生能力を発揮することが明らかになり、同時に感染症や他の炎症などの弊害を発生しないことも確認された。

研究チームは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、開発スキャフォールドにおける圧電特性や、細胞形状および細胞骨格タンパク形成に与える表面性状の影響を調べている。「骨再生を加速する“骨の包帯”のような働きをする圧電性複合材料の開発によって、バイオマテリアル設計の新しい方向性を提案できたが、更に、圧電性、表面性状、パラクリン傍分泌の観点から、増殖因子発現や骨再生の原理を明確にすることを目指している」と、研究チームは付け加える。

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