市販の義肢に組み込むだけ――腕や脚を切断して失った人が温度を感じられるようにするデバイス

CREDIT: EPFL/CAILLET

市販の義肢に組み込むと、装着者が触れたものの温度を感知できるようになるデバイスが開発された。この研究はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とイタリアの聖アンナ大学院大学(SSSA)を中心とした研究チームによるもので、2024年2月9日付で『Med』に掲載された。

感覚フィードバックは、腕や脚を切断した人が周囲の環境を探って関わり合うために重要なものだ。特に温度感覚は、日常生活でのさまざまな活動に欠かせない。

今回の研究では、既製品の電子機器を使用し、手術せずに市販の義肢に組み込めるデバイス「MiniTouch」を開発した。MiniTouchは、義手の指先から装着者の残存肢に熱情報を伝えることで、装着者が温度を感知して反応できるようにするものだ。

研究チームは以前、この感熱技術によって、27人中17人が受動的な温度感覚を回復できたことを示した。それに対し、今回の研究は、市販の義肢にMiniTouchを簡単に組み込めて、感覚ニューロンと運動ニューロン間のフィードバックが必要な作業中に、MiniTouchが能動的な温度感覚を可能にすることを示すものだ。

研究チームは、37年前に前腕(ひじから先)の切断手術を受けた57歳男性が使用している義肢に、MiniTouchを組み込んで残存肢のポイントにリンクさせることで、男性の義肢の人差し指に温度感覚を誘発させた。その後、男性は異なる温度の物体を識別し、分類することができた。

12℃の冷水、24℃のぬるい水、40℃の熱い湯のいずれかが入っているが、視覚的には区別できない3つのボトルを、MiniTouchを使った場合、100%の精度で識別できた。MiniTouchを使わない場合、その精度は33%だった。また、MiniTouchは、異なる温度の金属キューブを素早く正確に分類する能力も向上させた。

MiniTouchは、目隠しをした状態で人間の腕と義手を区別する能力も向上させている。MiniTouchを使っていない状態での精度が60%だったのに対し、使用時には80%まで上がった。

このように、温度情報を加えることで、物に触れたときの感触がより人間に近いものになるという。義肢を使用する人々にとって、熱さや冷たさを感じられることは、機能的に重要であるだけでなく、身体感覚を改善し、感情的な触れ合いを体験する能力を向上させる可能性がある。研究チームは、温度を感知する能力を持つことで、義肢装着者が「この手は私のものだ」という感覚を高められると考えている。

技術的な観点からこの技術はすでに使用可能な状態にあると研究者らは考えているが、臨床で利用するにはさらなる安全性試験が必要だという。また、より装着しやすくデバイスを改良する計画もある。

負傷していない腕と比べると、義肢を介して触れたことを感じる能力にはまだ限りがある。研究チームは、皮ふの柔らかさや質感など、熱感覚以外の感覚入力の限界によるものだと推測している。そのため、触覚、固有受容感覚、温度感覚を統合したマルチモーダルシステムの開発を目指しているという。

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