反応速度が10万倍に――MIT、微小電流で触媒反応を加速する手法を開発

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マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、有機合成反応に汎用的に用いられている酸による熱化学触媒において、数百mVの比較的小さな電位を負荷することにより反応速度を最大10万倍に高めることに成功した。汎用化学品の原料である1-メチルシクロペンタノールの、リンタングステン酸触媒を利用した脱水反応などにおいて有効性を実証している。少量のエネルギーを用いるシンプルな技術として、石油化学工業や医薬製造など多くの重要な工業的化学反応に適用できるという。研究成果が、2024年2月15日の『Science』誌に論文公開されている。

ブドウ糖の分解やアルコール発酵など生体に関連した酸化還元反応には、多くの酵素が触媒機能を果たしており「酸化還元酵素機能電極反応」と呼ばれている。これを活用してバイオセンサーやバイオ燃料電池などの開発が活発に進められているが、酸化還元反応においては酵素を介した電子のやりとりを伴うことから、触媒反応における電界の作用は非常に重要であり、電位の負荷によって桁違いの反応速度向上が得られることが知られている。

一方で、石油化学工業や医薬製造など化学工業界において主流となっている酸触媒による有機合成反応では、活性表面における分子の結合エネルギーが重要であり、酸化還元反応を含まないことから、これまで電位の負荷が系統的に検討されることはなかった。研究チームは、「熱化学的な酸触媒の研究者は、触媒表面における電位の役割について考えることがなく、一般的に電位測定の有効な手法も持っていない。また、電気化学的触媒と熱化学的触媒の研究者間で交流がほとんどなかった」と説明する。

研究チームは、電気化学的触媒の研究者グループでは当たり前の電界作用について、酸触媒による有機合成反応における可能性について検討した。汎用化学品の原料である1-メチルシクロペンタノールの、リンタングステン酸触媒を利用した脱水反応などで調べた結果、380mVの電位負荷によって反応速度が最大10万倍まで増大できることを発見した。

詳細なメカニズムに関する研究を通じて、準平衡的なプロトンの移行が促進されてC-O結合を効果的に切断することが推測された。Ti/TiOyHx触媒による1-メチルシクロペンタノールの脱水反応、およびリンタングステン酸触媒によるアニソールのフリーデル・クラフツ アシル化反応においても、電位負荷に起因した反応速度の大幅な向上が確認された。

研究チームは、「この発見は、電気化学的または熱化学的触媒反応のどちらかに関わらず、触媒の設計や反応促進に関する考え方を変革する」と説明する。既にプロセスについての特許出願を行うとともに、他の種類の反応においても展開できるかを研究している。これまでの実験は二次元的な平面電極を用いて行われてきたが、化学工業界で実際に使われる三次元的な容器における実用化の検討も進め、「システムをスケールアップして、この手法を有効に活用できるさまざまな反応炉を設計したい」と考えている。

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