発電するゲル材料を開発 NIMS、北海道大、明治薬科大

物質・材料研究機構(NIMS)は2024年4月18日、北海道大学、明治薬科大学と共同で、多くの静電荷を内部に安定的に保持できるゲル材料(ゲル-エレクトレット)を発表した。開発したゲルを組み込んだ自由変形する電極は、電圧シグナルとして、人体の運動などで生じる低周波の振動を出力するセンサー機能を有する。

近年、ソフトエレクトロニクスに適応する柔軟、軽量、かつ自己発電できる材料への期待が高まっている。外部電源を用いずに静電荷を持続的に保持できるエレクトレット材料は、振動発電素子へ応用できる。NIMSでは、流動性のある液体エレクトレットとして、静電荷を安定化するπ共役色素部位と柔軟な分岐炭化水素(アルキル)鎖からなる難揮発性の常温液体(アルキル-π液体)の開発を先導して進めている。

このアルキル-π液体は、優れた帯電特性を示すことに加え、成形加工性に優れており、塗布や浸透などの方法を活用できるが、流体であるため液漏れ、染み出しなど電極作製時の固定化や封止に課題があった。さらに、発電機能の向上のために帯電量のさらなる増大も必要となっていた。

研究チームは、微量の低分子ゲル化剤をアルキル-π液体に加えて貯蔵弾性率を4000万倍増加させ、容易に固定化や封止できるゲル(アルキル-πゲル)を創成した。研究では、アルキル-π液体の固定化や封止の課題解決の観点から、アルキル-π液体を低分子ゲル化剤でゲル化し、貯蔵弾性率を制御するコンセプトを提案した。

前例のなかったアルキル-πゲルの基本的な物性を明らかにするため、π共役色素の一種であるナフタレン分子に分岐アルキル鎖を導入した液体分子(アルキル-ナフタレン液体)を検討したところ、微量の低分子ゲル化剤をアルキル-ナフタレン液体に加え、130℃に加熱して溶解させた後、室温に冷却することで、流動性を失ったゲルが得られた。

ゲルは、母材となる液体と比べ、貯蔵弾性率が4000万倍増加。ナノメートルスケールの微小な繊維構造がゲル中に形成され、貯蔵弾性率の大幅増加にこの網目状繊維構造の形成が起因していた。

この手法は、簡便さに加え、粘度17 Pa・sまでの3桁にわたり粘度の異なるさまざまなアルキル-π液体をゲル化できる汎用性の高い弾性率の制御技術といえる。また、難揮発性と超高濃度に機能性色素部位を含有する。

さらに、アルキル-π液体は常圧で195℃以上まで揮発せず液体として安定に存在でき、アルキル-πゲルは大気中で10カ月以上ゲル状態で保存できる。また、ゲル化した後も柔らかさを損なわず、かつ超高濃度(最大59重量%)に機能性色素部位を含有する。

π共役色素の一種であるピレンを分岐アルキル鎖で液体化した分子(アルキル-ピレン液体)は、静電荷の安定的な貯蔵で有利な液体であり、研究チームはアルキル-ピレン液体をゲル化し、コロナ帯電処理でゲル-エレクトレットを創成。さらに、柔軟な電極で挟んで封止し、振動センサー素子を作製した。

同振動センサーは、エレクトレットの電荷保持量が大きいほど、大きい出力電圧が生じる。電極素子作製の際の封止や固定化が、ゲル化で容易になったことに加え、液体より帯電量が24%増加している。また、ゲル-エレクトレットを組み込んだ柔軟な電極素子は、17Hzの振動に対し、出力600mV(液体素子より83%増大)の振動センサー機能を示した。

また、振動センサー素子として、一度エレクトレットとして使用したアルキル-πゲルを回収して再利用できることも確認しており、サーキュラーエコノミーに資する材料としても期待できる。

今後、帯電量、帯電寿命といった帯電特性とゲル強度をさらに高め、素子性能を向上させ、微弱な振動やさまざまな歪み変形に追従できる、ウェアラブルセンサーとしての実用化を目指す。

関連情報

発電するゲル「ゲル–エレクトレット」の創成に成功 | NIMS

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