45MPa以上の高圧の環境下で半永久的に自立運転できる、超小型深海帯流速計を開発 奈良先端大ら

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科のヤリクン・ヤシャイラ准教授らは2024年7月31日、中国科学院深海科学与工程研究所、北京工業大学、深圳大学と共同で、廉価で45MPa(4500万パスカル)以上の高圧の環境下でも半永久的に自立運転できる、全長20cmの超小型深海帯流速計「DS-TENG」を開発したと発表した。摩擦、振動など力学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する摩擦電気ナノジェネレーター(TENG)発電技術を用いている。

深海の典型的な挙動として、世界中の深海を約1500年かけて、北大西洋北部および南極海で深層に沈み込んだ海水が巡り、北太平洋やインド洋などで表層に上昇した後 、再び極域へ戻るベルトコンベアーのような海水循環がある。この循環は自然現象に深く関与しており、立体的な流れを解明することが重要視されている。

また、深海帯(水深4000mから6000mの領域)には生物ポンプと呼ばれるメカニズムがあり、深海に生息する生物の生命活動を維持するための栄養素の輸送に大きく関わっているため、生物ポンプの情報を把握することで、深海生命の誕生、生存、進化のメカニズムの解明に貢献できる。

深海での流れの実態を解明するには、直接の流速観測が効果的だが、地球規模での網羅的な計測は極めて難しいため、最も現実的なのは数値シミュレーションとなる。しかし、数値モデルの作成には、各ポイントでの深海の流速やその空間的分布に関するデータが基礎データとして必要となる。正確な数値モデルを立てるには、実測ポイントを増やし、深海での流れの流速とその空間的な分布をきめ細かく想定した上で、十分に把握する必要がある。

これまで、全長数メートル、重量数十キログラムの「超深海乱流計」が使用されているが、巨大なものにも関わらず、バッテリーの関係で一度に数時間の測定しかできず、実測ポイントを増やすことや、長時間の計測が難しかった。そこで、長時間自立的な計測ができ、より低コストで運用できる計測装置の開発が求められていた。

そこで、研究チームはこれまでに開発したTENG発電装置の原理と構造を活用し、超耐圧(45MPa~75MPa)かつ約20cmの筐体を持つ「DS-TENG」を開発した。流れで発電しながら、電圧/電流と流速の相関からその際の流速を計測できる。自立発電しながら計測できるため、海流がある限り長期の流速計測と蓄積ができる。水深4531mの深海帯での実測では、流速レンジの測定(0.02m/s~6.69m/s)に幅広い範囲で対応できることがわかった。

DS-TENG深海流速計を利用することで、深海での長期間の多点同時計測や自立運転のためのエネルギー供給が実現でき、深海研究や環境モニタリングの分野で重要な役割を果たすことが期待される。

関連情報

4,500m 以深で半永久的に自立運転が可能な超小型深海帯流速計を開発 海流のエネルギーを電気に変換して利用 ~深層海洋大循環の解明や深海生命科学、CO2 を吸収するブルーカーボンの状況把握への貢献に期待~

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