- 2024-9-11
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- IoT, Meta, MIT, RSC Applied Polymers, Utah大学, アルコール, イミド含有ジアリルモノマー, カプトン, フレキシブル電子機器用基板材料, ポリイミドポリマー, レアアース, 光硬化ポリマー, 多層型デバイス, 学術, 電子廃棄物問題
マサチューセッツ工科大学(MIT)は2024年8月6日、同大学とユタ大学、Metaの共同研究チームが、アルコールなどの溶液によって迅速に溶解処理可能なフレキシブル電子機器用基板材料を開発したと発表した。回路に含まれる高価な金属やチップなどの部品は溶解されず、回収して新たなデバイスに再使用できるため、深刻化している電子廃棄物問題を軽減できると期待されている。また、紫外線によって数秒で硬化する光硬化ポリマーであり、多層型デバイスの製造プロセスを合理化しコスト削減が可能になる。
「電子廃棄物は、使い捨てのウェアラブルデバイスやIoT向けデバイスの生産が拡大するにつれて急増しており、環境に対して世界的に深刻な状態が進行している」と研究チームは語る。その中で、フレキシブル電子機器用の基板材料は、カプトンという製品名で知られるポリイミドポリマーにより製造されており、スマートフォンやラップトップパソコンの中のさまざまな部品を接続するフレキシブルケーブルを含めて、基本的にどの電子デバイスにも含まれているものだ。カプトンは優れた耐熱性や絶縁性を有し、原料の入手が容易なため広く使用されている。しかし、溶融または溶解することが基本的に不可能なためリサイクルできない問題がある。また、カプトンを製造する通常の工程には、200~300℃で材料を加熱する工程が含まれ、非常に時間がかかるプロセスになっている。
研究チームは、ポリイミドの優れた特性と高い製造性を考慮して、ポリイミドを改善することに注力し、リサイクルが可能になるように分解性を向上するとともに、多層電子デバイスなどの先端的な構造への造り込みを容易にする基板材料の考案にチャレンジした。分解性の高いエステル結合を有するポリイミドを合成し、光重合性を持つイミド含有ジアリルモノマーを導入した基板材料を作製した。
その結果、アルコールと触媒の溶液によって迅速に溶解できるとともに、回路に含まれる高価な金属やチップなどの電子部品類を溶液から無傷で回収できることが判明した。また、既存製造設備で容易に製造できるとともに、室温において紫外線によって数秒で硬化させることが可能であることを確認した。さらに、従来のカプトンでは、多層電子デバイスなどの先端的な構造に造り込むことが難しく、各層を同時に接着しなければならず、ステップとコストのかかるプロセスになっていたが、開発した基板材料では、低温で極めて急速に光硬化できるため、多層デバイスの可能性を拡大すると、研究チームは説明している。
開発したポリマーは、溶解によって最初の小さな分子に容易に分解、除去でき、残された高価な金属やチップなどの電子部品は集めて再使用できる。現在、チップやレアアース材料のサプライチェーンにおいて不足が生じており、これらの部品を再収集するプロセスが構築されれば、環境的、経済的に大きなメリットを創出できると研究チームは期待している。
研究成果は2024年7月12日に『RSC Applied Polymers』誌に公開されている。