- 2024-11-1
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産業技術総合研究所(産総研)省エネルギー研究部門は2024年10月31日、ゼロエミッション国際共同研究センターと共同で、熱電変換ユニットと断熱材を組み合わせた炭化炉の熱マネジメントにより、バイオ炭の生産性向上と同時に、廃熱を回収して発電するコプロダクションシステムの設計コンセプトを確立したと発表した。未利用バイオマス資源の活用を自立的な電力供給で促進する。
バイオ炭は、植物が大気中から吸収した二酸化炭素(CO2)を長期間固定できるネガティブエミッション技術の一つで、カーボンニュートラルの実現に貢献する。小型バイオ炭生産設備(炭化炉)はこれまで、炭化時の廃熱が有効利用されず大気中に排出されていた。バイオ炭の生産性向上を図りつつ廃熱を有効利用するには、炭化炉内の熱を適切に管理することが重要となる。
今回開発した技術は、小型炭化炉に熱電変換ユニットと断熱材を組み合わせ、同時にバイオ炭生産と廃熱発電を行う。この技術は、炉壁に設置した熱電変換ユニットが、これまで大気中に放出されていた炭化プロセスで発生する廃熱を電気に変換する。
ラボスケールのバイオマスストーブを用いた熱電変換ユニットの性能評価では、ストーブ外表面に熱電変換ユニットを取り付け、ストーブ取り付け面と反対面には外気と熱交換するためのピンフィンヒートシンクを取り付けた。
冷却に自然空冷式のヒートシンクを採用しているため、ファンなどの追加の電力を必要とせず、外気と効率的な熱交換ができる。性能評価の結果、ストーブ表面温度が181℃の場合、熱電変換材料に約75℃の温度差が生じ、1.4Wの発電ができることを確認した。
次に、前述のラボスケールの検証結果を基に小型炭化炉の概念設計と熱/物質収支解析を実施し、熱電変換ユニットと断熱材が存在しないベースモデルに対して、これらの要素が加わった新しい小型炭化炉構造を想定し、その効果を定量的に評価した。熱電変換ユニットの性能を最大限に引き出すため、ユニットの設置面積と冷却条件を最適化したところ、バイオ炭の生産性と発電量の最適な条件を見いだした。
バイオマス原料には、乾燥したミズナラ(日本原産のナラ)を想定した。ミズナラ1093kgを使用し、500~1000℃の範囲での炭化処理を実施する場合の熱/物質収支を解析した結果、炭化処理を比較的低温の500℃で実施した場合に、バイオ炭の生産性が最大になった。
この条件下で、バイオ炭を277kg生産した。このバイオ炭に固定される炭素の量をCO2に換算すると、916kgに相当する。さらに、炭化プロセス中に0.92kWの連続発電ができることがわかった。この発電量は、LED電球(100W型)約90個の同時点灯や、空気供給用ブロア2~3台の稼働に相当する。
開発した技術は、小規模でも高効率に運用できる点に優位性がある。大規模な炭化炉とは異なり、縦、横、高さが各2mで設計されているため、4トントラックで運搬でき、系統電源が利用できない山間部での導入に対応する。また、生産されるバイオ炭は、土壌改良材としての効果が期待できる。バイオ炭の多孔質構造は、土壌の水分保持能力を向上させ、養分の保持にも役立つ。
日本各地の未利用バイオマスを有効活用し、地域分散型エネルギー生産と炭素隔離を同時に実現することで、持続可能な地域循環型エコシステムの構築とネイチャーポジティブな取り組みの推進に貢献する。
今後、産総研が開発した高性能熱電変換モジュールなどを利用し、さらなる高性能化を目指すと同時に、実証実験により、さまざまなバイオマス原料や環境条件下での性能評価を進めていく。また、小型化、軽量化を図り、可搬性を高めるとしている。