- 2024-12-18
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アメリカのライス大学は2024年11月13日、同大学の研究チームが、天然の地熱塩水からリチウム(Li)を高効率で分離/抽出する画期的な電気化学反応炉を開発したと発表した。従来の電気化学反応炉に対して、多孔性固体電解質から構成される第3の中間槽を導入するとともに、陰極側に特殊なリチウムイオン伝導性ガラスセラミック(lithium-ion conductive glass ceramic: LICGC)メンブレンを設置したものである。これによって地熱塩水の電気化学反応において、Li+を高純度かつ高い選択性で分離/抽出できるとともに、有害な塩化ガスの発生を顕著に低減することができる。地熱塩水から効率的かつ高速で安全にLiを抽出できる手法として、再生可能エネルギーに必須のLiの安定供給に向けて、重要なステップとなると期待されている。
Liは再生可能エネルギーやEV用バッテリーなどに必要不可欠であるが、従来の鉱石資源の採掘が次第に困難かつ高コストになりつつある状況の中で、代替資源として地熱環境にある塩水が有望なLi資源と考えられるようになっている。だが、地熱塩水には、ナトリウム(Na)やカリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)など他の元素も含有され、イオンサイズや電荷量などがLiと化学的に非常に類似した性質を持つことから、従来の分離手法において高い選択性を確保するのが難しく、抽出プロセスが複雑化してエネルギー消費も増大するとともに、地熱塩水に含まれる塩化物に起因する有害な塩化ガスが発生し、環境に対する安全性が懸念されている。
研究チームは、新しく3槽から構成される電気化学反応炉を開発して、地熱塩水からLiを抽出するプロセスの課題解決に取り組んだ。従来の抽出手法に対して、多孔性の固体電解質から構成される第3の中間槽を導入するとともに、陰極側にLICGCメンブレンを設置した。これによりLi+だけを選択的に高速で通過させ、Na+やK+、Mg2+、Ca2+など他のイオンをブロックすることができる。また、陽極側に配置したプロトン交換膜が塩化物イオンに対する障壁として機能し、電極に達して有害な塩化ガスが発生するのを防止する。
LICGCは、光学ガラス分野で世界的なメーカーである日本のオハラが開発したリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料だ。酸化物固体電解質のなかでも高いイオン伝導度を持つことから、電極に添加することでリチウムイオン電池の長寿命化に有効と報告されているが、研究チームはLICGCをLi+の分離/抽出分野に応用した。抽出されたLiの純度は97.5%であり、地熱塩水中の他のイオンからLiを効率的かつ高い選択性をもって分離/抽出できることが実証された。一方、Na+が時間の経過とともにLICGCメンブレン表面に蓄積し、Liの輸送を阻害する傾向があることが明らかになり、研究チームは今後の研究が必要と考えているが、「高効率で安全な電気化学反応炉は、課題の多い地熱塩水資源からのLi抽出に関して、重要なゲームチェンジャーになる」と期待している。
研究成果が、2024年11月11日に『National Academy of Sciences』誌に公開されている。