量子コンピューターで化学反応速度を1000億分の1に減速――フェムト秒の現象をミリ秒で観測可能に

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豪シドニー大学の科学者たちは、量子コンピューターを用いて、化学反応における重要な過程の進行速度を1000億分の1に減速させることで、直接観察することに初めて成功した。この研究は2023年8月28日付で『Nature Chemistry』誌に掲載された。

植物が太陽からエネルギーを得る光合成のような光化学反応では、分子は超高速でエネルギーを伝達し、「円錐交差」として知られるエネルギー交換領域を形成する。円錐交差は化学において重要な概念であり、光合成や人間の視覚における集光といった高速の光化学過程に不可欠なものだ。

自然界では、すべての過程がフェムト秒(1000兆分の1秒)以内に終わる。化学者たちは、1950年代から化学力学におけるこの幾何学的過程を直接観察しようとしてきたが、非常に速く進行し、完了までの時間が極度に短いため、その過程を直接観察することはできなかった。

今回、理論化学と実験量子物理学の研究者が協力し、円錐交差によって引き起こされる単一原子の干渉パターンを目撃することに成功した。研究チームは、時間スケールが短すぎるという問題を回避するために、同大学にあるオーストラリア国内最高のプログラマブル量子コンピューターを使用し、全く新しい方法でイオントラップ量子コンピューターを使う実験を実行した。これにより、この非常に複雑な問題を比較的小さな量子デバイス上に対応させることができた。

このシステムで、該当過程の反応速度をフェムト秒からミリ秒(1000分の1秒)まで減速させることができた。そして、意義のある観察と測定が可能になり、予測されていながらこれまでは観察されることがなかった、光化学反応における円錐交差に関連する顕著な特徴を明らかにした。

今回の実験では、過程をデジタル近似するのではなく、観察可能な速度で展開する量子ダイナミクスを直接アナログ観察した。これは風洞で飛行機の翼周辺の気流パターンをシミュレートすることに似ているという。

研究チームは、この研究成果は、分子が最速の時間スケールでどのように変化するかという、超高速ダイナミクスについて理解を深めるのに役立つだろうとしている。また、分子内部や分子間で起きている基本的な過程を理解することで、材料科学、薬物設計、太陽光発電において、新たな可能性が広がるという。さらに、スモッグの発生メカニズムやオゾン層破壊過程など、光と相互作用する分子に依存する他の過程の理解にも役立つかもしれない。

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