VR体験で数学や科学を学ぶ「PrismsVR」――理数系教育を劇的に変革するMIT卒業生の取り組み

Credits:Image: Courtesy of PrismsVR

科学界の有名な逸話のひとつに、アイザック・ニュートンとりんごの話がある。彼が木の下に座っていたとき、リンゴが頭に落ちてきたのがきっかけで「万有引力の法則」の着想を得たというものだ。人間の単純だが実際的な経験が科学的思考に効果的に繋がることを象徴する例だが、教育機関における理数系の学習方法はこれとは対極にあることが多い。約5年前にこの問題に気づいたAnurupa Ganguly氏は、数学と科学の学習に仮想現実体験を取り入れた「PrismsVR」の展開を開始した。彼女の出身校であるマサチューセッツ工科大学(MIT)がニュースレターで、その取り組みを紹介している。

PrismsVRでは生徒たちは紙とペンの代わりに、VR用のヘッドセットを装着し、仮想空間での体験を通して数学や科学の基本概念を学んでいく。例えば、Ganguly氏が新型コロナウイルスのパンデミック中に初めて考案したVR体験では、まず学生たちが集う食堂に未知のウイルスの急増を告げる市長からのアナウンスが鳴り響く。学生たちは時間をさかのぼり、一人のくしゃみから群衆の行動まで、ウイルスがどのように広がっていくのかを観察し、増殖のデモンストレーションを行う。さらに、病院の収容能力が限界に達するまでの期間を算出するなどのミッションも課せられるのだ。学生たちが仮想体験をしている間、教師は各学生の進捗状況をモニタリングでき、必要に応じてサポートや介入が行われる。

Ganguly氏は「教育は長年、真の改革を切実に必要としてきました。しかし、これまでは講義をビデオにしたり、ワークシートをウェブアプリにしたりと、時代遅れの教育方法をデジタル化してきただけです」と従来の学習方法の課題を指摘し、PrismsVRは全く異なるアプローチの新しい学習プラットフォームであることを強調する。

現在、Prismsは7年生から11年生までの数学と科学のすべての科目をカバーしており、米国の35州で合計約30万人の学生に利用されている。ある研究では同社のアプローチが代数テストの成績を11%向上させたことが示されており、ゲイツ財団の資金援助により、より大規模な複数州での研究が進行中だ。

「数学教育が意味のあるものであってほしい」と願うGanguly氏は、PrismsVRを「教科書の次なる存在」にすべく、事業拡大を推進している。

関連情報

Using spatial learning to transform math and science education | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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