- 2023-9-7
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- Power to Gas, Robert Hahn, アルカリ水電解, エネルギー貯蔵システム, オンデマンド, フラウンホーファー研究機構 信頼性・マイクロインテグレーション研究所(フラウンホーファーIZM), リチウム電池, 亜鉛負極, 亜鉛電池, 化石燃料, 学術, 自然エネルギー, 自然再生, 電気分解
化石燃料から自然エネルギーへの完全な移行を阻む原因の一つに、自然エネルギーを貯蔵するための効率的な手段がないことが挙げられる。風力発電や太陽光発電は、その性質から十分にエネルギーを得られない時間帯が存在する。この課題は、従来の化石燃料を利用した発電で対処されているが、これによって化石燃料の利用継続が避けられず、各国は複雑な二重の電力インフラを抱えることになる。
フラウンホーファー研究機構 信頼性・マイクロインテグレーション研究所(フラウンホーファーIZM)を中心とするドイツの研究コンソーシアムは、この課題の解決策として、電力を貯蔵するだけでなく、オンデマンドで水素も製造できる安価な亜鉛電池の開発に取り組んでいる。2023年7月25日付で公表されたフラウンホーファーIZMのプレスリリースによると、最初の試験で、蓄電効率50%、水素製造効率80%、推定寿命10年のエネルギー貯蔵システムを開発した。
このエネルギー貯蔵システムの出発点は、従来の亜鉛負極を用いた電池だ。研究チームは、アルカリ水電解を利用して、全く新しい技術を生み出した。一般的なリチウム電池と異なり、亜鉛電池は鉄、亜鉛、水酸化カリウムという、安価で入手が容易かつリサイクル可能な材料で構成されている。さらに、このシステムはオンデマンドで水素を発生させることができる。研究チームは、金属亜鉛の形でエネルギーを貯蔵し、必要なときにエネルギーを電力と水素に変換できる、電気的に再充電可能な水素貯蔵システムの開発を目指している。
従来の電気分解は、電力を使って水素と酸素に分解後、水素は冷却/圧縮による高圧タンクでの貯蔵か、深冷液化をすることになるが、ここでも電力が必要となる。これを考慮すると電気分解の効率は50%以下になる。
新システムは、充電中は酸化亜鉛が還元されて金属亜鉛になり、水素は常圧の電解液中で保持される。この水素は、圧縮水素ガスや液化水素と比べてはるかに高密度だ。放電時、金属亜鉛は酸化亜鉛に戻り、水は再び還元されて水素と水素1㎏あたり8.3kWhの電力を発生する。さらに、モジュールのエネルギーが枯渇すると、負極に亜鉛を析出させ酸素を放出することで、電池と同様に再充電することが可能だ。
フラウンホーファーIZMのRobert Hahn博士は、「このシステムは通常の電池と水素供給源を組み合わせたユニークなものです。電気貯蔵効率は合計50%で、これは他のPower-to-gas(余剰電力を気体変換して貯蔵/利用する技術)システムの2倍の効率です」と述べている。材料費は、リチウム電池より1桁安価なため、商業的にも魅力的な選択肢になり得る。
研究チームは、実験室でこのシステムの実証実験を行い、個別のセルの効率と安定性を数サイクルにわたって評価した。当面の目標は、専用の構成で試験を実行するための実証ユニットの作製で、最終的にはそれぞれが約12V、50Ahの容量を持つ8個のセルが連結される予定だ。