- 2023-9-22
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- アルミニウムフレーク, エネルギーコスト, スタンフォード大学, 二酸化炭素排出量, 冷房, 塗料, 学術, 撥水加工, 断熱性, 暖房
スタンフォード大学の研究チームは、断熱性を高めることで、建物などを夏は涼しく、冬は暖かく保つことのできる新しい塗料を開発した。この塗料を使用すれば、二酸化炭素排出量とエネルギーコストの大幅な削減が可能だ。さまざまな色を展開でき、住宅や車両などの塗装に利用できる。研究成果は、『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に2023年8月14日付で公開されている。
暖房と冷房は、世界のエネルギー使用量の約13%、温室効果ガス排出量の約11%を占めている。この新塗料を用いて試験したところ、暖房に使用されるエネルギーを約36%、冷房に使用されるエネルギーを約21%削減できた。
これまでにも、外部に放出する放射熱を低減することで断熱性を高める低放射塗料は開発されている。しかし、色展開はメタリックなシルバーやグレーが一般的で、美観の面から用途が限られていた。
今回開発した塗料は、色層である上層と赤外線を反射する下層の二層構造をしており、さまざまな色展開が可能だ。無機ナノ粒子を成分とする極薄の色層を通過した赤外線のほとんどが、アルミニウムフレークを使った赤外線反射性の下層で反射する。このため、赤外線は光として反射し、熱として吸収されることがない。屋根や外壁に塗って外部からの赤外線を反射させることで涼しく、建物の内側に塗って室内の熱を逃さないことで暖かく保つことができる。
研究チームは、白、青、赤、黄、緑、オレンジ、紫、ダークグレーの8色について試験し、従来の同じ色の塗料と比べて赤外線反射能が10倍優れていることを確認した。
この塗料は、どちらの層もスプレーとして塗布するため、さまざまな形状や素材の表面に利用できる。例えば、建物以外にも、冷蔵輸送に用いられるトラックや電車の車両に適用することが可能だ。
また撥水加工が施されているため、湿度の高い環境でも安定性があり、塗装物を拭き掃除や水洗いで簡単にきれいにできる。高温(80℃)、低温(−195.8℃)、高酸性環境、低酸性環境に1週間暴露しても、性能と見た目に変化はなかった。
アメリカ全土の典型的な中層マンションにこの塗料を使用した場合のシミュレーションでは、暖房、換気、空調の総エネルギー使用量が年間7.4%減少すると計算されている。
研究チームは、より環境に優しい溶媒を利用するなど、実用化に向けて塗料配合の改良を進めるとしている。