大腸菌の遺伝子を操作し、廃水を使って発電する

CREDIT: JAMANI CAILLET (EPFL)

スイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究チームは、遺伝子組換えにより廃水中で発電する大腸菌を創出した。さまざまな有機物を利用して増殖でき、廃棄物処理とエネルギー生産の両面で価値がある。研究成果は、『Joule』誌に2023年9月8日付で公開されている。

自然界には、電気を発生する微生物が存在する。発電微生物として知られているシュワネラ菌は、「細胞外電子伝達(EET)経路」と呼ばれる経路を備えており、細胞内から細胞外に電子を放出することができる。しかし、特定の化学物質の存在下でしか発電できない、遺伝子工学的なツールが乏しいなど、バイオエレクトロニクスへの応用には制約がある。

同大学の研究チームは、大腸菌にシュワネラ菌の一種である「Shewanella oneidensis MR-1」の遺伝子を導入し、細胞の内膜と外膜にまたがる完全なEET経路をもつ大腸菌の作製に成功した。この発電大腸菌は、これまでに研究されてきた発電機能を持たせた大腸菌よりも、3倍の発電能力を有する。

今回作製した発電大腸菌は、自然界にある従来の発電微生物とは異なり、さまざまな有機物を基質として利用できる。醸造所から回収した廃水を用いた発電テストにおいて、従来の発電微生物が廃水中で生存することさえできなかったのに対し、廃水をエサにして飛躍的に繁殖し、電気を生産することができた。

多様な資源から電気を発生することができるため、廃水処理への利用にとどまらず、微生物燃料電池や電気合成、バイオセンシングなどへの応用が期待される。さらに、生物学分野で最も研究されている微生物である大腸菌は遺伝子工学的ツールも豊富で、柔軟に遺伝子導入できる。そのため、特定の環境や資源に適応させることも可能で、持続可能な技術開発のための、汎用性の高いツールとなるだろう。

研究チームはこの発電大腸菌について、「有機廃棄物を処理するために、システムにエネルギーを投入するのではなく、有機廃棄物を処理しながら同時に電気を生産する、一石二鳥のシステムです」と述べている。

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