MIT発スタートアップ、化石燃料の廃止を目指しサーマルバッテリーを開発

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マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップ企業Antora Energyが、太陽光や風力による再生可能エネルギーを用いて、カーボンブロックを1500℃以上に加熱して蓄熱、必要なときに熱輻射光による熱光起電力(ThermoPhotoVoltaic:TPV)発電が可能な、低コストで高効率なサーマルバッテリーを開発した。

再生可能エネルギーによる電力が気象条件や時間帯によっては過剰発電になり、電力グリッド網において価格が低下するような余剰電力を利用して蓄熱し、電力需要が高まるときにTPV発電または工業プロセスに熱供給するものだ。産業分野における活用を前提として、30MWまたは60MW級の発電能力を目指しており、産業基盤が強く、再生可能エネルギーが豊富な地域に展開しようと考えている。2023年始めに2MW級のサーマルバッテリーを生産できる、世界最大のTPV生産工場をカリフォルニア州に開設した。

太陽光や風力による再生可能エネルギープロジェクトが全世界的に拡大しているが、一方で市場飽和の問題を引き起こしている。再生可能電力がグリッド網に投入されるに従って、太陽光発電がピークとなる日中に余剰電力が発生し、電力価値が急落する。日本においても、電力会社による一般家庭からの太陽光電力買取り価格の下落が問題となっている。更に、再生可能エネルギープロジェクトに対する投資意欲の低下も発生している。これに対して、再生可能電力を大型蓄電池に貯蔵する電力需給調整技術の検討も世界的に進んでいる。日本でも、10〜50MW級の系統用蓄電システムの実証研究が、国の補助事業として進められている。

MIT機械工学科で博士号を取得したDavid Bierman氏は、気象条件や時間帯により出力変動の大きい再生可能電力を、蓄熱システムに貯蔵することに着目してAntora Energyを設立した。「風が最も強く、太陽が最も明るく、電気が最も安いときに電気を取り込み、抵抗加熱により極めて安定で安価な材料であるカーボンブロックを、1500℃以上に加熱して蓄熱する。エネルギーを取り出す場合は、熱輻射光によって工業プロセスで必要な熱を供給したり、TPVで電力を発生させる。これにより、産業分野でゼロカーボンかつフレキシブルな熱と電力の供給システムを提供できる」と説明する。

2023年始めには、2MW級のサーマルバッテリー生産工場をカリフォルニア州に設立するとともに、同じくMITの大学院卒業生であるJordan Kearns氏をプロジェクト開発担当として招いた。Kearns氏は卒業後、電気ボイラーと斬新な制御ソフトウェアを組み合わせて、風や太陽光が強いときにエネルギー源を化石燃料から再生可能電力に容易にスイッチできるシステムを開発し、スタートアップ企業Medley Thermalを設立して、バーモント州でCO2を年間約2500トン削減するプロジェクトの立ち上げに成功している。

Antora Energyは、コンパクトでコンテナ化されたモジュールシステムで容易に既存工業プロセスに統合でき、巨大で長期に渡る建設工事が不要で安価なサーマルバッテリーの製造を目指しており、化学分野や鉱山、石油ガス産業などと共同プロジェクトを進め、早ければ2025年に実現したいと考えている。

関連情報

Alumnus’ thermal battery helps industry eliminate fossil fuels | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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