水中でも数カ月濡れない――ミズグモをヒントに、画期的な超撥水性表面を開発

Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences/YouTube

大気中の酸素しか取り込めない肺を持っているにもかかわらず、水中で暮らすクモがいる。ミズグモ(Argyroneta aquatica)という名のこのクモは、何百万本ものざらざらとした撥水性の微毛に蓄えられた空気を水からのバリアとして利用し、水中でも呼吸ができるのだ。

ミズグモを覆う薄い空気の層をプラストロンという。材料学の研究者たちは長年にわたり、プラストロンを模倣した超疎水性表面を作製し、水中における腐食や細菌の繁殖、海洋生物の付着、化学物質による汚染などから物質を保護できないかと考えてきた。しかし、プラストロンは非常に不安定なため、これまでは実験室内で数時間、材料表面を乾燥させておくにとどまっていた。

今回ハーバード大学を中心とする研究チームは、水中でプラストロンを数カ月維持する超撥水性表面の開発に成功した。血液をはじき、細菌の繁殖やフジツボなど海洋生物の付着を防ぐ水中超撥水性表面は、生物医学や産業への応用が期待される。研究成果は、『Nature Materials』誌に2023年9月18日付で公開されている。

長期間効果が維持するプラストロンの形成には、ミズグモの毛のようにざらざらとした粗い表面が必要となる。しかし、表面の粗さは機械的な不安定さにつながり、温度や圧力、微小な傷など、わずかな撹乱にも影響を受けやすくなる。

この課題を解決するため、研究チームは超疎水性表面の評価に利用する、表面の粗さ、表面分子の疎水性、プラストロン被覆率、接触角の情報など多くのパラメーターを特定した。既存技術では2つしかなかったパラメーターを大幅に増やし、熱力学理論を組み合わせることで、プラストロンの安定性について十分な情報を得ることが可能となった。この手法を用いて、一般的に使用されている安価なチタン合金を原料として、既存の研究と比べて数千時間も長く表面の乾燥状態を保てる材料を開発した。

曲げ、ひねり、温・冷水による処理、砂や鋼鉄による研磨を施しても、材料表面の乾燥は保たれた。また208日間の浸水や何百回にもわたる血液中への沈降でも表面の好気状態は保たれ、細菌やフジツボなどの繁殖が抑えられた。

この技術は、手術後の感染症軽減やステントなど生分解性インプラントにおける医療分野での利用や、水中におけるパイプラインやセンサーの腐食防止など、実世界での応用が期待される。

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