- 2023-11-1
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- AI, B to B, B to C, Crutto, ガイドベーン, ステーベーン, タービン(羽根車), フランシス水車, マイクロ水力発電機, マイクロ水力発電装置, ランナーベーン, 二酸化炭素, 原子力発電, 太陽光発電, 株式会社ユームズ・フロンティア, 機械学習, 水力発電, 火力発電, 電力インフラ, 風力発電
コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻などによる影響で、さらに電気料金が高騰する昨今ではあり、閉口しているが、そんな電気に関連するマイクロ水力発電事業に特化したベンチャー企業があるのをご存じだろうか。三重県鈴鹿サーキットのお膝元にあるのが、マイクロ水力発電事業を展開している、株式会社ユームズ・フロンティアだ。
同社のマイクロ水力発電装置「Crutto」は、小さな水の流れを利用し、約2世帯分の1日に必要な電力を1台でまかなえ、座布団1枚くらいのスペースで設置できるという。同社の代表取締役である林 優氏に、マイクロ水力発電事業への熱き思い、新たなる発電技術開発について語ってもらった。(執筆・撮影・説明図作成:木ノ下陽一/一部写真提供:株式会社ユームズ・フロンティア)
就職しモノづくりの基礎を習得。独立して9年で多角事業を展開する企業に。
―――まずは、林さんの学生時代の専攻とご経歴をお聞かせください。
[林氏]高校を卒業した後、技術習得のために専門学校で機械工学を専攻することにしました。鈴鹿サーキットが地元にあり、F1が好きだったこと。そして、エンジニアの最高峰といえばF1のエンジニアやピットクルーだという思いから、自動車関連の機械工学に興味を持ったからです。在学中にターボエンジンのタービンについても学んでおり、その際の知見を今のマイクロ水力発電装置のタービン開発に生かすことができています。
専門学校卒業後、三重に本社がある板金加工会社に入社し、1年半、関東支社の立ち上げメンバーとして勤めました。素材を仕入れて、レーザー加工機で切断、プレス機で加工した後、検査をして出荷するという、ものづくりの一連の流れを体感できたことは、起業していく上で非常に大きな糧となりました。その後、環境への意識が高かったこともあり、何かしら環境に関わる仕事もしたいと考え、土壌調査の仕事を1年半した後、独立したという流れです。
―――ユームズ・フロンティアを設立された経緯をお聞かせください。
[林氏]1社目に在籍していた際に東日本大震災が起きました。その経験から、「モノづくりで環境にまつわる仕事がしてみたい」と思い立ちます。その思いが当社の「SAVE THE EARTH」という企業理念にもなっています。
23歳で独立したのですが、会社創業当初は半年ほど収入がなかったため、自社製品を開発できる状況になく、景気の影響で顧客獲得も非常に難しい状況でした。飛び込み営業をしても、中々相手にしてもらえない日々が続きます。
そのような中、メンテナンス業者から、余剰設備が中古市場に出回っているという話を聞きつけました。そこで、製造機械を売りたい人と買いたい人同士を仲介してマッチングさせたらどうだろうかと思い立ち、マッチングサイトを立ち上げた所、評判を得ることができました。中古機械に絞っている最大の理由は、新品よりも価格が安く、日本製機械は世界でも認められるほど品質が高く、故障しにくいという点です。使えるものは再生し、リユースしていくことで、産業廃棄物の削減につなげることができるというメリットもあります。
その後、機器レンタルやレンタルスペース、製造受託と事業を拡大。それらの収益を使って、マイクロ水力発電事業へ投資していくことになります。
マイクロ水力発電装置の完成秘話
―――次に、マイクロ水力発電事業を始めた経緯をお聞かせください。
[林氏]どのジャンルに参入しようかと考えたとき、何よりも「電力」が最も重要であるという結論に達したことから、2018年にマイクロ水力発電の開発をスタートさせました。ハイテク産業であるAIやIoT、ロボットを起動させるものは電力であり、電力がないことには人々の生活もままなりません。そこで、その電力を二酸化炭素(CO2)を排出しない、クリーンな再生可能エネルギーで賄えばよいのではと思い立ちます。しかし、「太陽光(発電)」や「風力(発電)」では、天候に左右されるという問題があったことから、最も安定し、且つどこにでもあるものという観点で我々が着目したのが、「水力(発電)」だったのです。
日本は、東日本大震災直前までは原子力による発電が大半を占めており、今では火力発電をメインに電力がつくられていますが、大規模発電に依存すれば、自然災害などに被災した際、辺り一帯が停電してしまうことを歴史が教えてくれています。そこで私は、従来の電力インフラに問題があるのではないかと考え、より小型で、かつ色々な場所に発電装置を設置できないか…そう思い、マイクロ水力発電事業へと舵を切った次第です。
>>ユームズ・フロンティアが開発したマイクロ水力発電機「Crutto」
―――開発期間の間、ご苦労をされた点をお聞かせください。
[林氏]マイクロ水力発電の販売に関しては、国の環境施策の影響もあり、評判は上々です。さらには、ヨーロッパからの引き合いもくるほど比較的スムーズでしたが、開発自体、そうは簡単にいきませんでした。
開発当初は2人態勢で開発を行っていたものの、小型であるが故に部品の加工精度が要求されます。そのため、試作品の完成に時間を要しましたし、なかなか運転試験を行えなかったのです。開発時間を短縮するためには、試作の回数を少なくし、かつ精度よく開発を行わなければならないことから、ヨーロッパの水力発電装置の開発エンジニアや航空機を開発した経験者、デザイナーにも参画してもらい、幅広い知見から効率の良い開発を行うようにしました。また、流体力学のシミュレーターやAIを使った解析を用いることにより、さらなる開発精度の向上にも努めました。企業案件でマイクロ水力発電の共同研究を行った経験があるのですが、これも自社製品の開発に生かすことができています。
―――マイクロ水力発電機はどのような場所に導入されているのでしょうか?
[林氏]6割は工場に設置されています。例えば、自動車工場の屋上には、鋳造したものを冷却するための冷却水を循環させる冷却棟という設備があり、そこへの設置が多くなっています。また、3割はビルへの設置です。ビル内にあるデータセンターではサーバーを強制水冷させるために24時間エアコンで冷やしており、空調の循環水を使って発電するシーンも出てきています。
残りの1割は浄水場・水処理施設に設置しています。今までは上水というクリーンな水で使うことを想定していましたが、最近では下水でも、水処理施設である程度処理された水であれば、マイクロ水力発電に使えるということが分かってきています。その他、24時間稼動しているマンションなどにも営業活動をしているところです。
開発当初は、川や農業用水路などでの使用を想定していたのですが、川では河川法の制約が、農用水路では農業組合の承認が必要となるなど、様々な障壁が明らかとなりました。民間企業の設備に設置するのであれば、法律による制約もないといったことから、既存設備への導入が主流となっています。
―――御社のマイクロ水力発電装置は小型なので、水のある所に持っていけばどこでも電力を賄えそうですね。
[林氏]その通りです。将来的には遠隔制御できる電力の可視化事業も行いたいです。例えば、あるビルでは電力が貯まり過ぎているが、別の工場では電力が足りないといったときにシームレスで電力の貸し借りができるよう、網目状に張り巡らされた電力インフラにすることで、より安定した電力供給をするという構想を検討しています。送電線を使って広範囲に電力を送る方が効率は良いのですが、災害が多い日本では、分散型の発電ニーズが今後高まっていくのではないかと考えています。昨年から配管の水を使ったマイクロ水力発電機の販売もスタートしており、農業用水路や過疎河川などでも使えるものを、年内に新商品として発売する準備をしているところです。
常に高みを目指す。マイクロ水力発電にかける熱き想い。
―――マイクロ水力発電事業における貴社の強みはどのような点にあるのでしょうか?
[林氏]通常、水力発電を行う水車にはいくつか種類はありますが、大部分の水力発電所がフランシス水車を用いており、当社もそれに倣い、マイクロ水力発電に用いています。
構造としては、タービン(羽根車)の中心にランナーベーン、発電負荷に応じてランナーベーンに入る流量を変え、出力調整できるようにするためのガイドベーン、さらに外側にあるステーベーンが配置されています。水量を調節し、回転速度を一定に保てるという利点がありますが、部品の加工精度の問題を始め、部品が増えるために製造コストがかかったり、メンテナンスの負担が増大したり。さらには発電効率を求めると、水車が小型しにくくなるという欠点もあります。
当社では、あえてガイドベーンをなくし、さらにランナーベーンに長さの異なる大小の羽根を付けることにより、小型で効率の良い水力発電を行うという3件の特許を出願しています。その技術により、小型かつ発電効率のよい水車を実現することができたのです。
[林氏]水力発電機は他社にもありますが、例えば、日立や東芝などが手掛けているものは、ダムで使用する大規模な水力発電装置です。小型の水力発電機の開発を大企業で行わないのは、ハードウェア開発に膨大な時間とコストがかかってしまうからなのです。そのようなニッチ分野ではあるのですが、スタートアップとして当社が参入しても充分な市場を獲得できると考え、マイクロ水力発電のハードウェア開発に注力しています。
発電の分野で注目されるポイントは、100%のエネルギーに対してどれぐらい電気に変えられるかという効率に尽きます。エネルギーに対して電気に変えられるのは、一般的に太陽光ではおよそ20%。風力ではおよそ40%です。他社のマイクロ水力発電装置は70~80%の効率ですが、当社では80%以上の効率で発電できるまでになりました。水の流れを解析しながら、いかに効率の良い水車に仕上げるかという水車構造のノウハウが、我々の強みとなっています。
―――発電した電力の運用などの面ではどういった取り組みをされていますか?
[林氏]効率の良い電力が得られたら、今度は発電の見える化でいかに効率よく運用できるか、という課題が出てきます。そのため、水がないときは配管のバルブを止めたり、水車に負荷がかからないようにしたりなど、状況に応じて制御しながら、いかに長期間、低コストで運用できるかという課題を解決していこうと思っています。具体的に、現在は遠隔監視のシステムを提供していますが、それらを活用し、運用方法のコンサルを行うことも検討しています。将来的には、遠隔監視システムから遠隔制御システムへの切り替えを進めることで、お客様にとって、より良い電力サービスを提供することができると考えています。
他にも、遠隔監視システムで運用したデータが蓄積されているので、AIで機械学習し、消耗部品の交換時期や故障予測をすることで、トラブルなく、長く使用してもらえるようなサービス開発も進めています。
クリーンで安定した分散型電力インフラを提供したい。
―――ありがとうございます。最後に、御社の今後の展望をお聞かせください。
[林氏]現在の課題は、一般の方達にもマイクロ水力発電の認知を高める、という点です。弊社ではB to B向けに事業を行っていますが、B to C向けとして、市場規模が拡大してきているアウトドア製品にも事業を展開していこうと、持ち運びに便利なマイクロ水力発電機を開発中です。河川などで発電した電気を、ランタンやアウトドア用の電気製品などの電源に使えるもので、ヨーロッパのデザイナーにも参画してもらい、一般の方達にも受け入れられるようなデザインの製品を検討していますので、この製品をしっかりと市場に送り出したいです。
また、最近では水素エネルギーが見直されています。何らかの方法で水素を発生させれば、燃料電池に加えることで蓄電が可能になるので、弊社では、その水素を発生させるためのコア技術である、人工光合成の実用化を目指しています。
人工光合成というのは、植物などが行っている光合成を人工的に再現することで、光から水素をつくり出す技術です。マイクロ水力発電の事業を立ち上げるときからその構想もあったのですが、人工光合成を開発するには、莫大な費用がかかります。既に東京大学や京都大学などで研究はされているのですが、実用化までに50~100年ぐらいかかると言われてきました。しかし、昨今では、ネットを使い、海外とも情報共有がスピーディにできるようになり、過去と比べ物にならないくらい開発スピードが上がっています。
こうした新しい技術の分野に、意思決定が早く、フットワークが軽い元気なスタートアップ(企業)が参入して先導していけば、きっと近い将来には、人口光合成の技術も実用化されるのではないでしょうか。
今の水素は化石燃料からつくられていることが多く、クリーンなエネルギーにはなりえません。マイクロ水力発電の際に排出された水を使い、人工光合成を行うことにより、私が考えるクリーンで安定した分散型電力インフラが構築できるものと確信しています。私が生きてる間に、実用化、そして製品化をやり遂げたいです!
取材協力
ライタープロフィール
木ノ下 陽一
学生時代に、電気系及び無線雑誌のライターとして活動。Scratchや工業用部品の教育教材も担当。現在は、音響機器メーカーに電気系エンジニアとして所属。その傍らでブロガー・テクニカルライターとして精力的に活動している。
URL:https://crijpa.com/