- 2023-11-14
- REPORT, 機械系, 電気・電子系
- 3Dプリンター, デジタルフォトフレーム, ノイズ, フォトフレーム, ラズパイ, レトロテレビ, ロータリーエンコーダー, 工作, 転載, 電子工作
幼少期の生活を思い出してみる。昔住んでいた家の記憶と共に思い浮かぶのは、居間にあった家具調テレビである。
昔のテレビは、現代のテレビとは違って操作に対する感触があった。電源を入れるときは、大きなボタンを「カチッ」と押し込む。チャンネルを変えるのも「ガチャガチャ」と音を立てるダイヤル操作だった。
また家具調テレビと言うだけあって、本体には木が使われていた。真っ黒な薄型テレビが主流となった今にして思えば、味がありすぎる家電である。
その時代の個性的なデザインやインターフェースを、何か別のものに応用できないだろうか。思い付いたのは、「デジタルフォトフレーム」との融合であった。
見た目はレトロテレビ、中身はデジタルフォトフレーム!
今回作ったのは、レトロなテレビみたいな外見をしたデジタルフォトフレームである。外見だけでなく、操作もレトロテレビ風。チャンネルのダイヤルをガチャガチャと回すことで、写真を次々と切り替えられるようになっている。
昔のテレビの写真をいろいろと見ながら、「これがあればレトロなテレビっぽいな」という要素を自分なりに抽出していった。なので、特定の機種を再現したわけではなく、さまざまな機種/メーカーのテレビをキメラ化したオリジナルデザインとなっている。
デジタルフォトフレームで写真を切り替える操作を、テレビのチャンネル切り替えみたいにしてみた。たったそれだけなのだが、次々と写真を送る操作がすごく気持ちいいのだ。
ダイヤル部分にはロータリーエンコーダーという部品を使っていて、弱いながらも「カチッ」というクリック感がある。今だと「次の写真に切り替える=タッチパネルのフリック操作」が基本だけど、そこに足りていないのは触覚へのフィードバックなのだと感じる。操作に対して何らかの感触があるというのは心地良いものだ。
ちなみに、写真を切り替えるときのエフェクトにもこだわっている。
白い線がシャーッと入るような“アナログっぽいノイズ”ではなく、ブロック状にバグったみたいな“デジタルっぽいノイズ”にしてあるのは、サイバー感を出したかったからだ。外見はアナログ、中身はデジタル、という新旧の融合が、なんとも言えない良さを生むのである。あと、こういうノイズが個人的に好きというのもある。
デジタルノイズを上手く使う
このノイズをさらに味わえるようにしたのが、チャンネルダイヤルの下にある第二のダイヤルである。
テレビの場合、メインのチャンネルダイヤル(VHFのチャンネル)の下にあるのは、UHFのチューニングをするダイヤルであることが多い。ここを回して微調整しながら、ノイズが少なくキレイに映るポイントを探るのだ。
それをデジタルフォトフレームに応用するとこうなる。
なんとも面倒くさいデジタルフォトフレームである。でもこれだけでは終わらない。さらに面倒な機能も追加してみた。
昔のテレビには、「ノイズが酷くなると叩いて直す」という荒療治があった。実際に叩くとどれだけ直ったのかは定かではないが、「叩く」という暴力的な動作が家電に対して行われるのは面白い。それを取り入れてみた。
こうして、レトロでありながら今風な、便利なようで不便な、そんなデジタルフォトフレームが完成したのであった。
動画にもまとめたので、こちらも合わせてご覧あれ
ここからは、中身がどうなっているのかを順番に解説していきたい。
デジタルなノイズを作る仕組み
バグったようなデジタルノイズは、簡単に作れる。一言でいうと、JPEG画像のバイナリを適当にいじって、壊れた画像をランダムに生成している。なので、バグったようなというより、本当にバグっている。
これらのバグった画像をつなげることで、サイバーな表示を生み出せるのだ。
なかなかの壊れっぷりである。ランダムに生成しているので、自動的に無限の画像を作り出せる。これをエフェクトとして使うことで、チャンネルを切り替えるときのノイズや、調子が悪いときの乱れた映像を作り出しているのだ(しかし目がチカチカする……)。
外装は3Dプリンターと木で作る
テレビの外装部分は木であるが、すべて木ではなく、作りやすいように3Dプリンターの造形物と組み合わせて作っている。
木を手動で真っ直ぐ切るには、かなりコツがいる。それを補うため、私は「ソーガイドF」というガイド付きのノコギリを愛用している。これを使うと本当に真っ直ぐ切れるのでオススメです。
最近、多色印刷できる3Dプリンター(Bambu Lab P1S)を買ったので、ここぞとばかりに白と黒の2色で印刷してみた。初の多色印刷だったが、上手くいった!
これらのパーツを組み合わせると、外装部分は完成である。
テレビの中にラズパイを入れる
デジタルフォトフレームを制御するメインのマイコンは、小型のラズパイである「Raspberry Pi 3 Model A+」を選択。液晶はWaveshare製の5インチ液晶(800×480ドット)で、ラズパイと簡単にドッキングできるようになっている。
電子パーツと3Dプリント品、そして木の融合。この異種混合な組み合わせにグッとくる。特に木の質感がいいよなぁと感じる。
最近の家電は外装に木を使ってくれないけれど、個人的にはもっと木を活用していきたいと改めて思ったのであった。
今は売られている液晶のほとんどがアスペクト比16:9であり、4:3が主流の昔のテレビよりもだいぶ横幅が大きい。そんな横長のサイズを上手く誤魔化すためにどうするか。パネルで覆って隠してしまえばいいのだ。
というわけで、液晶のかなりの部分を隠すというもったいない使い方をすることで、自然なレトロテレビのサイズ感に収められたのであった。
上に物を置くと馴染むデジタルフォトフレーム
ノイズがいい雰囲気を出しているし、やはり叩く機能を実装したのが良かった。薄型テレビみたいな形状だと叩きがいがないけれど、この形のテレビだと叩きやすくて、ポンッと太鼓を叩く感じにも近い。
壊れない範囲でポンポン叩いていると、不思議なもので、だんだんと愛着も湧いてくる。適度にポンコツな方が、かえって愛おしく思えたりするものだ。
物を置いてみると、得も言われぬ実家感が醸し出された。わりと本気で、このデザインのデジタルフォトフレームはありではないかと思うのであった。
(fabcrossより転載)
関連情報
ノイズが出れば叩いて直す! レトロテレビ風のデジタルフォトフレーム(掲載元: fabcross)
ライタープロフィール
斎藤 公輔(NEKOPLA)
散歩が趣味の組込みエンジニア。主に「日常生活で目にするもの」をモチーフにしたガジェット作品を制作し、各種メディアやSNSで発表している。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。Twitter