電力不要で押すと光る――藻類を使った生物発光材料を開発

credit: UC San Diego Jacobs School of Engineering

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)を中心とする研究チームは、機械的ストレスに反応して発光する、柔軟で耐久性のある材料を開発した。単細胞藻類である渦鞭毛藻(うずべんもうそう)を生きたまま利用した材料だ。この材料の応用例として、圧力や歪みなどを測定する機械センサー、ソフトロボット工学分野、光を利用して治療や薬物放出を制御するバイオメディカル機器などが想定される。研究成果は、『Science Advance』誌に2023年10月20日付で公開されている。

「非常に興味深いのは、この生物発光材料が本質的にシンプルだということです。発光するために電子機器や外部電力は必要としません。我々は、自然の力を利用して、機械的刺激を直接発光に変換できることを実証しました」と、UCSDのShengqiang Cai教授は述べている。

開発した生物発光材料は、渦鞭毛藻とアルギン酸を主成分としている。赤潮の原因にもなる渦鞭毛藻は代表的な発光プランクトンで、発光という手段を生存戦略の一つにしている。アルギン酸は、海藻から作られるポリマーの一種だ。海中で生じる現象を模倣して、この生物発光材料は開発された。これらの成分を混合した溶液を材料に、3Dプリンターで格子状や渦巻き状、クモの巣状などさまざまな形状に加工できる。材料中の渦鞭毛藻が、圧縮や伸張、ねじれなどの機械的ストレスに反応することで、材料自体が発光する。

材料の表面を押しながらなぞると、そのパターンに沿って材料は発光する。加えられる力が大きいほど、より明るく発光するが、弱い力にも反応し、発泡スチロールのボールが表面を転がるだけでも光るほどだ。研究チームは、力に応じた発光挙動を定量化し、機械的応力の大きさに基づいて光の強さを予測する数学モデルを開発している。

メンテナンスが最小限であることも、この材料の利点の一つだ。材料内で渦鞭毛藻が機能し続けるためには、明暗サイクルが必要となる。渦鞭毛藻は、明期に光合成によりエサとエネルギーを生産し、暗期に機械的ストレスに応じて発光する。この挙動は、赤潮発生時に渦鞭毛藻が海洋で生物発光を起こす自然界のプロセスを反映している。

研究チームは、さまざまな条件下での材料の耐久性を高めるために、第2のポリマーとしてポリエチレングリコールジアクリレートを添加し、より大きな機械的負荷にも耐えられるようにした。さらに酸や塩基からの保護を目的として、エコフレックスと呼ばれる伸縮性のあるゴム状ポリマーで材料をコーティングした。これらの改良の結果、この生物発光材料は海水中で5カ月間、形状や発光特性を維持できたという。

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