ディープラーニングを用いた新素材開発手法、少ないデータ量で活性やガラス転移点を予測 奈良先端科学技術大学院大学

奈良先端科学技術大学院大学は2020年12月25日、材料工学分野にディープラーニング技術を適用する手法を開発したと発表した。

従来の素材開発手法は、トライアンドエラーを繰り返すために莫大な時間と費用がかかる。この問題解決のために、ディープラーニングを用いてAIに大量のデータを学習させ、予測を行って開発プロセスを短くする方法が検討されてきた。しかし、ディープラーニングには数万個のデータが必要で、素材開発の現場で化学反応プロセスのデータを大量に取得するには多くの費用がかかるため実用化されてこなかった。

そこで研究者らは、少ないデータ量からディープラーニングで活性やガラス転移点の予測ができる技術を開発した。具体的には、触媒の写真を用いた活性の予測モデルと、ポリエステル樹脂の化学構造式を用いたガラス転移点の予測モデルを作成したという。

触媒を開発するには、触媒が化学反応を促進する効率(触媒の活性)を上げることが重要だ。実験では、2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し、活性が高かった場合、低かった場合の違いを、ディープラーニングを用いて学習させ、活性を上げる構造を予測するモデルを作成した。

電子顕微鏡写真143枚に対し、写真の一部を切り出す/複写するなどの処理を行い、1万枚に増加させた。そして、これらをディープラーニングで解析し、活性予測モデルを作成し、活性が触媒のどの場所で起こっているかを確認する画像を作成したという。

その結果、予測モデルは非常に高精度に作成できることが確認された。また、反応原料が拡散するための穴(メソポアとマクロポア)のうち、マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという予想が取得画像から得られた。

ポリエステル樹脂の化学構造式を用いたガラス転移点の予測モデルでは、不足しているデータ量を補うため、一般公開されている外部の化学構造のデータベースを読み込ませてディープラーニングで解析し、ガラス転移点予測モデルを作成した。さらに、化学構造のどこがガラス転移点に影響を与えているのかを確認するため、画像を作成した。

予測モデルを分析評価したところ、転移点の温度を精度良く予測できることが確認された。また、官能基の置換位置はガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていたが、得られた画像から、ベンゼン環に対する官能基の置換位置(オルト位、メタ位、パラ位)がガラス転移点に大きな影響を与えていることが判明した。

奈良先端科学技術大学院大学は、素材開発はこれまで研究者の経験に基づき行われてきたが、今回の研究成果により、今後はデータ科学と研究者の知見を融合し、効率的に行われるようになることが期待できるとしている。

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