肌に棲みつくアクネ菌にニキビ治療成分を分泌させる研究

研究著者が人工知能を使って作成した画像

ポンペウ・ファブラ大学が主導した国際的な共同研究により、皮膚常在菌の一種であるCutibacterium acnes(アクネ菌)に、ニキビ治療に適した分子を産生、分泌させる技術を開発した。皮膚疾患の新たな治療法開発への応用が期待される。研究成果は、『Nature Biotechnology』誌に2024年1月9日付で公開されている。

ニキビは、毛包の閉塞や炎症により誘発される一般的な皮膚疾患だ。難治性のニキビになると、毛包に生息する細菌を殺す抗生物質や、皮脂を分泌する細胞である脂腺細胞を死滅させるビタミンA誘導体イソトレチノイン(商品名アキュテイン:日本では未承認)で治療される。しかし、これらの治療法は作用する細胞を選ばないため、皮膚マイクロバイオームの恒常性を乱す可能性がある。また、抗生物質には光過敏症、イソトレチノインには出生異常や異常な皮膚の鱗屑(りんせつ)などの副作用も知られている。

研究チームは、アクネ菌のゲノムを編集し、ニキビ治療薬であるイソトレチノインのメディエーターであるタンパク質NGALを産生、分泌させることに成功した。研究チームによると、これまでアクネ菌は扱いにくい細菌であると考えられてきたという。DNAを導入し、それに対応するタンパク質を産生、分泌させることは難しいとされてきた。しかしアクネ菌は、生息環境や皮膚のホメオスタシス(恒常性)における重要性など、皮膚疾患の治療に魅力的な特徴を持っているため、研究チームはアクネ菌のゲノム編集にこだわっていた。

チームは、アクネ菌のゲノム編集のために、細胞へのDNAデリバリー、細胞内でのDNA安定性、遺伝子発現の改善に焦点を当てて研究を進めた。開発した手法は、規制対策のために生物学的封じ込め戦略をとっている。そのため、ゲノム編集した細菌は実社会に応用できる安全性を有しており、将来ヒトの治療に応用が可能だ。こうしてゲノム編集したアクネ菌は、NGALを産生、分泌し、細胞株の皮脂産生を調節した。また、マウスの皮膚に生着し、タンパク質を産生することも確認されている。

現在、研究チームはアクネ菌によるニキビ治療に注力しているが、この技術はアクネ菌に限ったものではない。あらゆる細菌を編集して、さまざまな病気の治療を可能にする技術プラットフォームなのだ。ニキビ治療以外にも、皮膚センシングや免疫調節に関連するアプリケーション微生物の作成にも役立つ、と研究チームは述べている。この研究は、欧州プロジェクト「SkinDev」のもとで継続され、アトピー性皮膚炎に対するアクネ菌の編集が実施される予定だ。

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