油田から水素だけを取り出す技術――二酸化炭素を出さず、廃油田の再利用も可能に

カナダのカルガリー大学とスタートアップProton Technologiesは、地下油田から水素だけ取り出すローコストの技術を開発している。副産物としての二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは地中深くにとどめたまま、ゼロエミッションのクリーンエネルギーを産出できる。研究結果は、2019年8月の「Goldschmidt 国際会議 2019」にて発表された。

発電や輸送のための燃料として、水素に対する需要は高まっている。天然ガスから水素を取り出す場合、その製造過程では二酸化炭素を排出することになる。また、水の電気分解にはコスト面での課題がある。

Proton Technologiesは、2015年に設立したスタートアップで、カルガリー大学のIan Gates教授も共同設立者として名を連ねる。カナダ西部にはオイルサンド鉱床が存在し、燃料の元となる炭化水素の貯蔵庫であると同時に、巨大な水素貯蔵庫でもある。同社は、地中に炭素を残したまま、オイルサンド貯蔵層から直接水素ガスを商業用に生産するため、「Hygenic Earth Energy(HEE)」と呼ぶ技術を開発し、現在、フィールドテストを進めている。

HEEの開発のきっかけとなったのは、1980年代にMarguerite Lakeで行われた地下燃焼と蒸気による石油の大量生産に関する研究だ。石油の生産はうまくいかず、副産物として20%もの水素を含むガスが生成した。当初は、水素の生成は重要視されなかったが、Gates教授らは、このプロセスを模倣し管理できれば、世界のエネルギーシステムに大きな意味を与えられると考えた。

HEEは、地下の貯蔵層を加熱して水素を生成し、水素ガスだけを抽出するという2段階のプロセスを利用する。まず、酸素濃度を高めた空気を、貯蔵層の奥深くに注入し、ガスやコークス、重炭化水素を酸化する。すると、貯蔵層の温度は上昇していき、最終的には500℃を超え、やがて炭化水素と周囲の水分子が分解しはじめる。炭化水素と水蒸気は水性ガスシフト反応と呼ばれる反応を起こし、水素と二酸化炭素を生成する。

このようにして地中で発生した水素は、特殊なフィルターを内蔵した「Hygenerator」を通過し、ポンプで地上までくみ上げられる。そのほかの生成物は貯蔵層に残ったままだ。曲がった油井にも設置可能で、高温高圧の環境下でも長期間機能する金属合金フィルターの開発を進めている。

この技術の利点は、すでに放棄された油田からも十分に水素が生成できることだ。天然ガス用のパイプラインを水素輸送に転換するなど、既存のハードウェアも利用できる。システムを最適化すれば、最終的に1kgあたり0.5ドル(約55円)以下で製造できると見積もっている。

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