- 2024-3-25
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- Nature Energy, コバルト, デンドライト(樹枝状に成長する結晶), ナトリウム, ナトリウム電池, リチウム, リチウムイオン電池, 学術, 液体溶媒, 米テキサス大学オースティン校
米テキサス大学オースティン校は2月29日、同大学を中心とする研究チームが、安価で豊富にある材料を使用して、火災の危険性を大幅に減らした新しいナトリウム電池を開発したと発表した。スマートフォン、ノートパソコン、電気自動車(EV)などに電力を供給するリチウムイオン電池の代替品として期待できる。この研究の詳細は、2024年2月19日付で『Nature Energy』に掲載された。
電池による火災はまれだが、電池の使用量が増えていることから発生件数は増加傾向にある。電池の電解液に含まれる複数の液体溶媒は、時間の経過とともに他の部品と反応して電池を劣化させ、危険につながる。また、リチウムの代替物質として使われるナトリウムは反応性が高く、この種の電池に採用するには大きな課題がある。デンドライト(樹枝状に成長する結晶)が析出成長することで、電池のショートや、場合によっては発火や爆発を引き起こす可能性がある。
画期的なナトリウム電池の技術革新を支える中核的要素は、固体希釈剤だ。研究チームは電解液に塩ベースの固体希釈剤を使用し、充放電サイクルを促進。硝酸ナトリウムにより、電解質に単一の不燃性溶媒だけを使用できるようになり、電池全体を安定させることができた。
このナトリウムベースの新しい電池は、安全性が高いことに加え、安価に製造可能であることも特長となっている。リチウムの採掘にはコストがかかり、地下水の大量使用、土壌汚染や水質汚染、炭素排出量など、環境への影響が批判されてきた。それに比べ、ナトリウムは海から入手でき、価格も安く、環境にも優しい。
また、通常リチウムイオン電池ではコバルトも使用するが、コバルトは高価で、主にアフリカのコンゴ民主共和国で採掘されており、現地の人たちの健康や環境に大きな影響を及ぼしている。今回開発された電池は、リチウムだけでなくコバルトも使用しておらず、その他の部品は、鉄40%、マンガン30%、ニッケル30%で作られている。
さらに、一般に、1回充電するだけでバッテリーの寿命は徐々に短くなっていくが、新しく開発されたナトリウム電池は、その点でも高い性能を誇る。500回充電しても容量80%を維持し、これはスマートフォン用リチウムイオン電池の水準に匹敵する。
研究チームはこの技術をナトリウム電池に応用したが、材料は違うものの、リチウムイオンベースの電池セルにも応用できる可能性があるとしている。