- 2021-10-21
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PCやスマートフォン、タブレットを始め、多くの製品に使用されているディスプレイやタッチパネル。それらの機能、性能を高めるフィルムや樹脂などの機能性材料で、世界的に高いシェアを持つのがデクセリアルズだ。オートモーティブソリューション事業部 商品開発部の加藤裕司さんは、自動車のセンターインフォーメーションディスプレイ、クラスターメーターなどでも活用が広がる反射防止フィルムの開発に従事。日々進化する自動車の車内に、新しい価値を提供している。(執筆:杉本 恭子 写真提供:デクセリアルズ株式会社)
--まず御社についてご紹介ください。
[加藤氏]当社はディスプレイ周辺の様々な電子材料や光学材料を開発、販売しています。特に異方性導電膜、光学弾性樹脂、反射防止フィルムは、おかげさまで世界シェアNo.1です。ディスプレイの性能を高めるために、複数の製品を組み合わせてトータルなご提案ができることが当社の特徴であり強みです。
当社はパソコンなどのエレクトロニクス向けを主軸に事業を展開してきましたが、今後も会社が成長し続けるために、現在、事業ポートフォリオの拡大を図っているところです。特に最先端技術の集合体である自動車業界は当社技術の新たな市場と考えており、2016年頃から車載向け製品の提供を開始しています。
--加藤さんは、自動車向けの反射防止フィルムの開発を担当しておられますね。自動車向けは、一般的な反射防止フィルムとどのような違いがありますか。
[加藤氏]反射防止という機能は、外から入ってきた光の反射を無くすことで、ディスプレイが放っている光を良く見えるようにするものです。光の反射や映り込みによってスピードメーターやタコメーター、カーナビなどのディスプレイが見えにくいと、安全な運転を脅かすことにもなりかねないので、反射防止はとても重要な機能です。車内は非常に高温になることもありますし、長時間光にさらされますから、一般的な反射防止フィルムより高い耐光性や耐久性が求められます。
--新たな市場である自動車業界向けに製品を投入するのは、ご苦労も多かったのではないかと思います。
[加藤氏]そうですね。自動車は一度購入したら長期間使用するものですから、私たちが提供する製品にも長期間の使用に耐えられる耐久性と信頼性が求められます。開発においては、特に耐久性に着目して、多くのトライ・アンド・エラーを続けてきましたが、自分で作ったものを自分で「ダメだ」と判断し、その都度、材料から作り方まで見直すという作業の繰り返しでした。
自動車業界に参入した当初は、当社の反射防止フィルムについて、ご存じではないお客様が多かったため、まず反射防止フィルムに関する知識や知見、利点などをご案内するところからスタートしました。特に海外のお客様とのコミュニケーションでは、細かいニュアンスなどをお伝えするのが難しかったです。
--自動車向けの反射防止フィルムを市場に投入してから5年ほどになりますが、御社の製品が選ばれる理由は何だと思いますか。
[加藤氏]品質と耐久性の高さを認めていただけていると自負しています。当社の反射防止フィルムは2019年にはディスプレイ向けの優れた材料を表彰する「Display Component of the Year Award」を受賞、昨年2020年には耐久性を従来品の40倍に高めたハイエンドの「HDシリーズ」を開発しました。また、お客様の製品の立ち上げに向けて技術や情報の提供、課題の解決など、開発、営業、品質保証が一丸となってサポートできる点も、評価いただけていると思います。
設計だけでなく、全体を多角的に見ることも重要
--ここからは加藤さんのエンジニアとしてのキャリアについてお伺いします。大学では何を専攻されていたのですか。
[加藤氏]当社は化学系のエンジニアが多いのですが、私の専門は物理で大学では電気電子工学を専攻しました。元々文系科目より理系科目のほうが得意ではありましたが、電気に興味を持ったのは、高校で自分の進む道を決める時でした。電気は身の回りでたくさん使われているのに、テレビが映る仕組みを誰も説明できない。では、この電気の仕組みを勉強してみたら面白そうだ、と考えたのが、電気系の道へ進んだきっかけです。
--エンジニアという職業を意識したのはいつ頃ですか?
[加藤氏]大学の最後の1年で光学用のデバイス素子の開発をテーマに研究をしていましたが、1年間では結果を出せず、大学院でも同じ研究を続けました。研究を通じて、実験を計画して進め、考え、物を作り出すという楽しさを知ったことで、それを仕事にすることを考えるようになりました。逆に言うと、それ以外のことを仕事にできる気がしませんでしたね。
--就職先にデクセリアルズを選んだのはなぜですか。
[加藤氏]大学の研究で材料を作るためにスパッタリング装置を使用していました。そのスパッタリング装置を使ったものづくりに興味を持ち、それが実現できる会社はどこかと調べた中で、最初に出会ったのがデクセリアルズだったのです。今、私が開発している反射防止フィルムを作る装置も、まさにそのスパッタリング技術を使っているもので、現在の仕事を始めるきっかけになった技術です。
--現在の業務における加藤さんの強みはどういった点なのでしょうか。
[加藤氏]スパッタリングはどちらかというと物理分野の技術ですが、それ以外にも材料に関する知見や化学の知識も必要です。当社には化学系エンジニアが多いので、チームでいろいろな知識や知見、意見を集めてより良い製品を作り出す開発において、物理の視点から意見を広げることができるのが強みだと捉えています。
スパッタリング装置は原理だけでなく、装置自体にも詳しくないと技術者としても設計者としても成立しないという特徴があります。そのため、私は製品をつくる上で設計だけではなくプロセス面にも関わってきました。設計から製造まで、工程全体にアプローチできるようになったおかげで、例えば何か不具合があった場合に、設計だけではなく製造工程も見直して多角的に判断することができるようになりました。
「なぜ」がなければ、新しい物は生まれない
--エンジニアとして仕事をしていて、どんなときに喜びややりがいを感じますか。
[加藤氏]2つの喜びを味わえていると思います。
1つは、自分の思う通りの製品がつくれた時です。製品の立ち上げでは、こういう特性が欲しいと狙っても、その通りにできないことはよくありますが、それが本当に思い通りにできたときに達成感を感じます。
もう1つは、市場で自分の手掛けた製品を目にした時です。携わった製品がお客様に使っていただけるのはエンジニアとしてとても嬉しいですし、光栄なことです。開発の過程では苦しむことも多々ありますが、その苦しみも新しい発見につながると思えば、楽しみの1つなのかもしれません。
--ものづくりをする人には、どんな心掛けや素養が必要だと思いますか。
[加藤氏]まず、きちんと人の話を聞くことが大切だと思います。お客様には何か困っていることや、解決したい課題があります。われわれが良いと思って作った製品でも、満足いただけるとは限らないため、お客様やチームメンバーの意見を聞いて、お客様のニーズに沿った製品開発をすることが大事です。
素養としては、何に対しても疑問を持って探求するという意識を持つことでしょうか。「なぜそうなったのか」を考えなければ、新しい物も、改善も生まれません。良いところも悪いところも含めて、疑問を持って探求し、ものづくりの精度向上を繰り返すことが大切だと考えています。
--最後に、今後の抱負を聞かせてください。
[加藤氏]われわれの製品をより多くの人に知っていただき、もっと市場を広げるアプローチをしていきたいです。当社の魅力や製品の良さを伝えるために、技術者だからこそできる方法があると思うので、そこに力を入れていきます。
自動車は目覚ましい技術発展を続ける分野で、搭載されるディスプレイの形もサイズもどんどん変化しています。私たちも現状に満足せず、変化するニーズに対応した製品開発や、課題解決の提案を続けていきたいと思います。