東京大学と産業技術総合研究所などによる研究グループは2018年7月18日、有機トランジスタのノイズの原因となるトラップ(半導体中の電荷が空間的/エネルギー的に捕獲されること)の密度を高感度で定量化する技術を開発し、ノイズの原因を突き止め取り除くことで、世界で最も低ノイズの有機トランジスタの作製に成功したと発表した。
有機半導体は、有機溶媒に溶かして基材に塗布することで電子デバイスを大量かつ安価に製造できることから、次世代電子材料として注目されている。有機トランジスタも、様々なセンサーや論理演算回路に利用する研究が進んでいる。しかし、有機トランジスタは定常状態でも「わずかな電流の揺らぎ=ノイズ」が必ず存在し、信頼性や安定性といった動作性能を低下させる原因となっている。これまでこのノイズの原因や低減方法については、未解明の部分が多かった。
今回同研究グループではまず、アモルファスから単結晶まで結晶性の異なる材料を用いた有機トランジスタを作成して結晶性とノイズの相関を調査し、ノイズの精密測定と、その原因となる電荷のトラップ密度の精密評価を可能にする技術を開発した。ノイズの精密測定では、従来提案されていたエネルギー障壁の深いトラップだけでなく、有機半導体とゲート絶縁体の界面に存在するわずかなポテンシャルの乱れなどに起因する障壁の浅いトラップからもノイズが発生していることを見出した。さらに解析手法を改良し、トラップ密度を短時間に高感度で定量化することに成功した。
この結果を踏まえ、トラップ抑制のため界面に配置した分子膜の品質を上げ、界面を制御してトラップに捕獲されない電荷伝導機構であるバンド伝導性を高めることで、実効的な移動度を向上させノイズの低減を試みた。有機半導体には、同グループが開発した、バンド伝導性を有し高い移動度が得られるとともに、不純物が少ないC8-DNBDT-NWを使用。この材料により、他の有機トランジスタと比較してノイズレベルが圧倒的に低い有機トランジスタの作製に成功した。
同研究グループによると、今回の研究で得られた低ノイズの有機トランジスタは、IoTに必要となる安価で高感度なセンサーデバイスの実現に貢献するとしている。