大阪大学は2024年4月3日、工業排水に含まれる硝酸(NO3–)に太陽光を照射してアンモニア(NH3)を合成する技術を開発したと発表した。研究成果は同年4月2日、米国化学誌『JACS Au』で公開された。
光触媒反応では、太陽光エネルギーにより、水を還元剤としてNO3–からNH3を製造することが原理的には可能だが、通常の光触媒では、水の四電子酸化(2H2O → O2 + 4H+ + 4e–)とNO3–の八電子還元(NO3– + 9H+ + 8e– → NH3 + 3H2O)を進めることが難しく、反応を進める反応系は開発されていなかった。
研究グループでは、天然に存在する鉄さびの一種であるβ-オキシ水酸化鉄(β-FeOOH(Cl))に表面酸素欠陥(OVs)を形成させたβ-FeOOH(Cl)-Ovsを光触媒とする方法を発案。この触媒粉末を、塩化物イオン(Cl–)とともにNO3–排水に加えて太陽光を照射することで、水を還元剤としてほぼ100%の選択率でNO3–をNH3に変換することに成功した。
NH3は化学肥料の原料として重要な化学物質で、近年は再生可能エネルギーの貯蔵や輸送を担うエネルギーキャリアとしても注目されている。しかし、従来の工業プロセスによるNH3合成では、水素(H2)と窒素(N2)を非常に高い温度と圧力下で反応させる必要があった。
一方、NO3–は工業排水に多量に含まれる環境汚染物質で、従来は中和した後に微生物などでN2に還元してから排出されていた。今回のNH3合成技術を実用化できれば、工業排水の無害化とともに、常温/常圧下でのNH3の合成が可能になる。