海水中で原料まで分解する超分子プラスチックを開発 理研など研究チーム

理化学研究所は2024年11月22日、東京大学などとの国際共同研究チームが、強靭(きょうじん)でありながら海水中などで容易に原料にまで分解し、生化学的に代謝される「超分子プラスチック」の開発に成功したと発表した。マイクロプラスチックによる環境汚染が問題となっているプラスチックの代替材料として期待される。

研究チームが開発したのは、安価で生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを用いた無色透明で超高密度のガラス状超分子プラスチックだ。高い物質代謝活性を持ちながら、優れた成形加工性や耐熱性、高い力学特性などを備えている。

研究チームは、リサイクル方法やマイクロプラスチックによる環境汚染が課題となっているプラスチックの代替材料として、超分子ポリマーに着目した。超分子ポリマーは結合の可逆性から原料モノマーに簡単に戻すことができるが、ゴムのような柔らかい材料にしか使えず、プラスチックの需要を満たす代替材料になることはできないと長い間考えられてきた。このため、超分子ポリマーをもとにした堅固なプラスチックの作製に取り組んだ。

生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを室温の水中で混合した。すると、水素結合で強化された静電相互作用(塩橋)によって2種類の原料が互いに接着し、架橋構造体を形成すると同時に、混合物は上相と下相に相分離を起こし、上相(水相)は高密度の水にモノマーの無機対イオンを取り込み(脱塩)、下相は静電相互作用(塩橋)によって接着した架橋構造体を形成して凝縮相を作る。

この相分離によって架橋構造が安定化し、塩を外部から添加しない限り、架橋構造体から原料への解離ができなくなるため、凝縮相を分離して乾燥させると、無色透明で超高密度(1.71gcm-3)のガラス状超分子プラスチックができることを発見した。

さらに、硫酸グアニジニウムのモノマーの構造の設計によって、さまざまな物性の超分子プラスチックを作製することもできる。研究グループは、それぞれ異なるモノマー構造の硫酸グアニジニウムを用いて、耐熱性に優れた超分子プラスチック(耐熱温度315℃)と、硬度を備えた超分子プラスチック(ヤング率18GPa)、引張強度が高い超分子プラスチック(材料の破断に必要な力が36MPa)を作製した。

開発した超分子プラスチックはいずれも、堅固でありながら、加熱により容易に成型加工でき、これまでのプラスチックと同様に複雑な形も作れる。一方で、海水などの塩水に入れると、原料モノマーにまで速やかに解離し、バクテリアなどによる生化学的な物質代謝が可能になる。

原料モノマーの一つであるヘキサメタリン酸ナトリウムは安価なうえ、食品添加物や農業用途に広く用いられており、安全性が高い。もう一つの原料モノマーの硫酸グアニジニウムの一部は天然由来のアミンから合成できる。これらの原料モノマーに含まれているリンや窒素は肥料として重要で、リンは近海を除く海洋で不足している。

作製された超分子プラスチックはリン原子があるため難燃性で、温室効果ガスも排出しない。遺伝毒性もなく、土壌の上に置いておけば、次第に土壌に吸収される。研究グループは「今後のプラスチックのあるべき姿を示している」としている。

研究成果は同日付の科学雑誌『Science』オンライン版に掲載された。

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海水中で原料まで分解できる超分子プラスチック | 理化学研究所

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