光で熱を電気に変換する「熱光起電力システム」――量子物理学からの着想

Photos by Gustavo Raskosky/Rice University

米ライス大学の研究者は、2024年11月21日、光によって熱を電気に変換する「熱光起電力(thermophotovoltaic:TPV)システム」の研究成果として、重要な要素の改善手段を発見したと発表した。

TPVシステムの構成は、光を電気に変換する光電池(photovoltaic: PV)と、熱を光に変換するサーマルエミッターという、2つの主要コンポーネントを持つ。TPVシステムが効率的に動作するためには、これら2つのコンポーネントを適切に機能させる必要がある。

この課題に対して、研究者らは量子物理学にヒントを得たアプローチを採用した。その結果、実用的な設計パラメータの範囲内で、効率60%以上のサーマルエミッターを設計した。このサーマルエミッターは、タングステン金属シート、スペーサー材料の薄層、シリコンナノシリンダーのネットワークで構成されている。これを加熱すると、ベース層は熱放射を蓄積し、光子の浴槽のような状態になる。

上部にある小さな「共振器」は、この浴槽から光子を1個ずつ取り出せるよう互いに「会話」し、PVセルに送られる光の明るさと帯域幅を制御する。この背景には、単一の共振器システムの性能に注目するのではなく、これらの共振器が相互作用する方法を考慮することで、光子の蓄積と放出をコントロールできるようになったという経緯があった。

従来の設計手法では、サーマルエミッターの設計スペースに制約があった。この制約に合わせたデバイスは、実用的ではあるが性能の低い、もしくは高性能だが現実のアプリケーションへの組み込みが難しい、といった二者択一に陥っていた。

この研究は、バッテリーを代替し、低廉な価格で電力網に接続できる、熱エネルギー蓄電技術の開発に寄与するとの期待がある。より広い意味では、効率の高いTPV技術は、再生可能エネルギーの普及を促進するといえる。これは、原子力発電所や製造施設など、大量の廃熱を出す産業への貢献が期待される。

本技術は、火星の探査車の動力源といった、宇宙環境への応用にも可能性がある。このようなシステムの効率を2%から5%向上できれば、極限環境での発電効率向上に寄与する可能性が高い。

研究成果は『npj Nanophotonics』誌に掲載された。

関連情報

Quantum-inspired design boosts efficiency of heat-to-electricity conversion | Rice News | News and Media Relations | Rice University

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