- 2025-2-7
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Image Credit:Steven Burrows/Ye group
米コロラド大学ボルダー校と米国国立標準技術研究所(NIST)の共同研究機関JILAの研究チームが、フッ化トリウム(ThF4)の薄膜を作成する手法を考案した。トリウム229のエネルギー励起状態からの遷移に基づいて発生する光子の周波数に基づいた超精密な計時が可能になるとともに、従来技術よりも放射性が1000倍も低く、安全でコスト効率の高い原子核時計を実現できると期待されている。
1秒の長さの定義は、かつては地球の自転や公転に基づいた天文学による定義が採用されていたが、1967年にセシウム133原子の基底状態の、2つの超微細準位間遷移に対応する放射周期に基づいた原子時計による定義に改定された。誤差が数十万年に1秒と非常に高い精度を持ち、現在、国際原子時は世界中の原子時計の時刻を加重平均することによって決定されている。
それでもさまざまな外場によって影響されやすいという指摘があった。JILAを中心とした各国研究機関から、外場からの影響を受けにくく原子時計よりも正確な計時方法として、トリウム229原子核のエネルギー遷移に基づいた原子核時計が提案され、活発な研究が行われている。この遷移に必要なエネルギーは他の原子と比べて約1万分の1程度であり、普通の紫外線レーザーを使って原子核の状態を変化させることができるという特長がある。しかし、トリウム229は稀少であるとともに放射性物質であることから、バルク結晶として必要量を確保し安全に計時するには極めて大きなコストがかかる問題がある。
研究チームは、従来のバルク結晶の代わりにThF4の薄膜を作成して、放射性が1000倍も低くコスト効率が高い原子核時計を構築する方法を考案した。チェンバー内でThF4を加熱して蒸発させる物理的蒸着法(PVD)を用い、蒸発した原子を基板上に凝結させ、約100nmの厚さのThF4薄膜を形成することに成功した。
基板としては、紫外光領域まで透明でレーザーによって原子核を励起できるサファイアとフッ化マグネシウムを用いた。UCLAの研究チームと連携して、ThF4薄膜に広いスペクトル幅を持つ強力レーザーを照射して原子核の励起と遷移の試験を行った。その結果、レーザーのエネルギーが励起に必要なエネルギーに正確に一致する条件で、原子核は励起し基底状態に復帰する際に光子を放出することを検知し、原子核時計の参照振動数として機能できることを実証した。
薄膜を用いた方法では、たった数mgのトリウム229しか使わず、放射性はバルク結晶の場合よりも1000倍も低くなり、安全性を確保できるとともに稀少なトリウムの入手コストを大幅に低減でき、コスト効率を高めることができる。さらに小型化して携帯可能にすれば、一般的な日常用途にも展開できる。研究チームは「腕時計にまで小型化するのは遠い目標だが、通信からナビゲーションまで精密計時が必要な分野を革新できる」と期待している。
研究成果が、2024年12月18日に『Nature』誌に公開されている。